大企業と消費者

おにぎり1個、100万円

近代私法の三大原則のひとつが私的自治の原則で、これは「私法上の法律関係について、個人が自由意思に基づき、自律的に形成することができる」ということです。
その結果、法律行為自由の原則や過失責任の原則も生じます。

封建的支配から個人を解放するための原理ですが、時代と共に問題点も多いことがわかって、修正が加えられるようになりました。

山の中で道に迷い、お腹がすいて倒れそうだとします。たまたま通りかかった人が「おにぎりを1個」持っていて、
「このおにぎりを100万円で買わないか。今、契約書に署名すれば(口約束でもいいですが)、お金は下山してから3日以内に支払えばよい。」という契約はどうでしょうか。
おにぎり1個が100万円でもほしいなら買えばいいし、高すぎると思うなら買わなければよいのでしょうか。買うも買わないも自由なはずです。

企業においても同様です。「わが社の業務がハードで、その割に給与が安いと思うなら、文句を言う前に転職すればよいではないか。もっと楽で、休日がたくさんあって、給料が高いところへ転職するのに引き留めはしない。わが社はあなたに頼んで働いてもらっているわけではない、働きたいという人は他にいくらでもいる。クビにするとは絶対に言わないが、辞めたければご自由にどうぞ。」と社長が言う会社も実際にあります。会社と個人の自由契約で、納得したから入社したはずという主張です。

相続関係の問題(遺言書、遺産分割協議書)でも、パワハラ等でもこの種の問題は身近にあります。

消費者 行政書士 川崎市

裁判はどこでする

裁判所が日本に1か所しかないなら、どこで裁判をするかは明らかです。しかし、混雑するでしょうし、日本中のあらゆる地域に住む人が1箇所に集中したのでは、時間も費用も体力も必要です。裁判所の近所に住んでいる人には便利ですが、遠方に住む人は、はじめからあきらめてしまうかもしれません。

そこで、最高裁判所は東京にしかありませんが、高等裁判所は数カ所、地方裁判所はさらに多く、簡易裁判所は400か所以上あります。
どこの裁判所を利用するのか。—もっとも基本なのは「訴えられる人が住んでいるところ」「訴えられる会社の本店所在地」です。

また自動車事故などなら、事故の発生地を管轄する裁判所で訴訟をすることもできます。証拠集めや証人の出廷にも便利でしょう。事故現場なら、原告にも被告にも無縁な地ではないはずです。

このように、どこの裁判所で訴訟をするかは重大な問題です。そこで、応訴管轄とか合意管轄があります。
応訴管轄とは、訴えの起こされた裁判所で被告が納得すればそこでするということです。
合意管轄とは、契約等の当事者がどこの裁判所で訴訟をするかを当事者が決めることです。特に支障のない限り認められるようです。

合意管轄について私が勉強していた頃、「新民事訴訟法概要」(林屋礼二著 有斐閣 2000年 初版第1刷 24頁)には、『この合意は、被告に十分な予測を与えて「管轄の利益」を保護するうえから、一定の法律関係に関する訴えについて(したがって、X・Y間で将来起こるすべての訴えというのではいけない)、かつ当事者の意思を明確にして争いの発生をふせぐうえから、書面でなされることが必要とされる。この種の合意は、手形の振出しや、賃貸借契約、保険契約、そして、最近ではクレジット契約の締結などのさいに行われる場合が多い。』と書いてあります。(注:途中、かっこ書きを省略した箇所があります。)

合意管轄の合意には、法で定められている通常の管轄裁判所以外でも裁判ができるようにする選択肢を増やす合意と、特定の裁判所だけに限定する場合があります。特定の裁判所だけにすると当事者のどちらかが不利になることがありますので、一般論としては、その管轄の合意が「当事者の意思」を自由に表明できる状況のもとでなされたならよいのですが、その合意が経済的に対等でない立場にある者の間でなされた場合は不公平が生じそうです。

また「新民事訴訟法概要」からの引用です。
『消費者との間でのクレジット契約などの締結の場合を見ると、それは約款によるものであり、会社の本店所在地の裁判所が管轄裁判所とされているが、(中略)遠隔地の消費者は、実際上訴訟ができなくて、はなはだしい不利益を受けることになる。』ので、約款の場合には、自由意志を表明できない契約者(消費者)の利益を救済する上で、被告とされた契約者は自分の住所地の裁判所で訴訟できるようにするのが、当事者を公平にあつかう見地から適切である、と林屋礼二先生は考えておられるとのことででした。

林屋礼二先生のお考えだと書いてあるのに、私は当然のことだと思ったので、「約款で消費者の不利になるような管轄の合意は、必ずしも有効でない」と勘違いしていて、試験問題の解答を間違えたことがありました。

川崎 約款 行政書士

大企業には逆らえないか

誰でも知っているような大企業との契約(特に約款)で、かつては、「もし、お客様と当社との間で争いが生じ、訴訟にする場合には、当社の本社所在地である東京地方裁判所で行う。」というようなことが明記さてれいたものです。つまり、北海道の人でも沖縄の人でも離島の人でも、東京地方裁判所まで出かけていかなければならないということです。

しかし、今では合意管轄裁判所は、たとえば「客(申込者等)は、紛争が生じた場合、客の住所地、購入地、会社の本支店を管轄する裁判所で訴訟を行う。」というように変わっています。進歩があったのだと思います。

今でも業界によって似たような問題が解決されていません。ここに具体的には書きませんが、理不尽なものがたくさんあります。諦めずに、声を上げるべきでしょう。内容証明郵便では効果がない、とお考えの人も多いのですが、「内容証明の積み重ね」は結構、力になると思います。

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