「不倫をしてはいけないというのは人権侵害ではありませんか?」などと言うと、「おっ、開き直ったな。」と、すぐに叱られそうな気がしますが、不倫(正確にいうと不貞行為)は悪くないという人は大勢います。【不倫は違法か】をご参照ください。もっとも、「不倫」「不貞」という言葉自体がマイナスイメージですから、「配偶者以外との関係」くらいに言っておいた方がよいかもしれません。
不倫の慰謝料請求をすると、「不倫なんて悪くないよ。うちの会社じゃみんなやってるよ。」と反論する人もいるのですが、こういう人たちはちょっと「荒れている人たち」だろうと思います。ブラックな職場でストレスが多いと、そういう心理になりがちかもしれません。
そうではなく、学者・弁護士などで、不倫が不法行為とされるのは本来間違っていると考えている人も大勢います。
人間は自由だ
自分の犬に帽子をかぶせてもかまいませんが、自分の配偶者に、「外出時には必ず帽子をかぶりなさい。」と強制することはできないでしょう。(お願いするなら自由です。)
法律上、犬は「物」なので、飼い主・所有者の自由にしてよいのです。(愛玩動物の虐待というようなことはここでは無視してください。)
しかし、配偶者は「人」なので、夫や妻の所有物ではなく、勝手気ままに扱うことはできません。だから、誰と関係を持とうと自由だ、という考え方があります。
恋と愛のゆくえ
ドラマや小説では、恋のゴールは一応「結婚」でしょう。男女がいろいろあって、結局、結婚しようと決まったところで、たいていはハッピーエンドです。
(もっとも、結婚は第1話の終わりで、結婚してからは第2話が始まることは十分考えられます。恋の終着点が結婚で、結婚してからは愛の問題になるという分類もあるでしょう。)
結婚でハッピーエンドとなるのは、他の異性との競争に勝ったからとも考えられます。勝負はつきました。戦いは終わりました。だから、平和に妻や子をもって、こころ安らかに婚姻生活・家庭生活を送れるという考え方です。
また、そのように、家族という枠組みに収まって心安らかに暮らそうという約束が「婚姻」という制度の役割のひとつと考えられます。結婚したら他の異性と関係は持たないという約束をしたことになるのです。
ですから、不倫をすると約束違反となるので、不貞行為(不倫)は離婚事由となりえます。もっとも夫婦間で、他の異性との関係は自由にもってよいというような別のルールがあるのなら構いませんが、原則として不倫はだめなのです。
不倫相手への慰謝料請求
婚姻しているのに、配偶者以外の人と関係を持った場合、約束違反なので慰謝料請求ができます。不法行為による損害賠償で、これが不倫の慰謝料請求です。不倫をした人が、自分の配偶者から慰謝料請求されることは、現行法では問題ありません。
考えておかなければならないのは、不倫の相手方に対する対応です。不倫はひとりではできません。必ず相手がいて、その人のことを相姦者といいます。
たとえば夫が不倫をすると、妻は、夫と相姦者に慰謝料請求ができます。
妻 == 夫 ーー 相姦者
夫と妻は、他の人と関係を持たないという約束をしているのに、その約束を破ったのですから、そこに不倫の慰謝料請求があるのは理解しやすいのですが、相姦者は何も約束をしていません。約束をしていないのですから、約束を破ってもいないわけで、何の責任も生じない、不倫の慰謝料を請求される理由がない、という考え方があります。
論理的に考えると「なるほど」という気もしますが、歴史や慣習から考えると「違和感がある」という人も多いでしょう。感覚的には、相姦者を許せないという人が多いでしょう。法律はこの感覚や慣習を重視したものと思われます。相姦者は「約束破りの片棒をかついだ人。円満な婚姻関係を妨害したり壊した人だから、約束破りについて連帯責任がある。」というような考え方をしています。
上のふたつの考え方のどちらが正しいかですが、これは社会通念・価値観・人生観の問題です。正しいとか正しくないということではありません。
不倫の慰謝料は、
- 不倫をした配偶者と
- 相姦者
の双方に請求できます。【求償権】もご参照ください。
実際には、自分の配偶者には請求せず、相姦者だけに支払わせる例は多いです。
不倫がその夫婦(あるいは一方だけ)にとって婚姻関係継続を不可能にする決定的な要因の場合には、離婚に直結する重大な約束違反なので、この場合の不倫の慰謝料は高額だと思います。また不倫の慰謝料請求の時効が成立する前に離婚するでしょう。
離婚の慰謝料も双方に請求するのか
離婚は、夫婦の意見が一致すれば、あとは離婚届を提出するだけで成立するので、とても簡単です。ただ、一方が離婚を拒むとなると、離婚は難しくなります。
離婚するとしても、その離婚原因が一方の責任によるものであれば、他方は離婚で不当につらい目に遭うのですから、離婚の慰謝料を請求できます。
平成31年2月19日の最高裁判決
平成31年(2019年)2月19日、最高裁は、
「夫婦の一方は,他方と不貞行為に及んだ第三者に対し,特段の事情がない限り,離婚に伴う慰謝料を請求することはできない」(平成29年(受)第1456号 損害賠償請求事件 平成31年2月19日 第三小法廷判決)
というような判断をしました。(私が要約したので、間違いがあればご教示ください。)微妙な事案では、何人かの裁判官が反対意見をつけることがよくありますが、この裁判については5人の裁判官の全員一致の判断です。
相姦者に対し、不倫の慰謝料請求はできるが、離婚の慰謝料は特別な事情がなければ請求できない、とのことですが、この判決が「当たり前だね。」という人と、「画期的だ。」と感じた人がいるようです。
不貞行為が離婚原因で、不貞行為発覚後ただちに離婚に至るような場合は、通常、不倫の慰謝料が高額です。
一方、不倫(不貞行為)の前後から婚姻関係に不和が生じ、その不和の一部として不貞行為があって離婚に至ることもよくあります。離婚に至ったのは、夫婦間でいろいろあった結果だから、その「いろいろ」についての責任を不倫相手(相姦者)も必ず負うというのは無理があるでしょう。
不倫はあっても離婚しない夫婦は大勢います。むしろ不倫だけが原因で離婚する夫婦は少ないようです。離婚に至らない場合の不倫の慰謝料は、離婚した場合より低額でしょう。
大雑把な書き方になりますが、
- 不倫の慰謝料は配偶者と相姦者に請求可能で、
- 離婚の慰謝料は、自分の配偶者が一方的といえるほど問題があれば配偶者に請求できる
と考えておけば、およその目安になると思います。それ以上詳しく知りたい方は専門書をご参照ください。また、上の記述に間違いがあればご教示ください。
慰謝料支払いの際の合意書・示談書
不倫の慰謝料を支払うときに、通常は、合意書・示談書等を作成して、
- 不倫の慰謝料として△△円支払う。
- 合意書に記載したことを守る以外、互いに何も義務を負わないし、請求もしない。
というような清算と約束をしますから、特別な事情がないかぎり、不倫の慰謝料支払後、2年も3年も経ってから、「不倫が原因で離婚したから、離婚の慰謝料を払ってください。」と請求されることはありません。
このようなわけで、不倫の慰謝料請求では合意書・示談書等を作成することをお勧めしています。
離婚の慰謝料について合意書・示談書が必要かどうかですが、たいていは離婚協議書に記載するので、離婚の慰謝料についてだけの合意書・示談書は作成しないと思います。
川崎市中原区の行政書士
こう言うと気を悪くなさる方がおられるかもしれませんが、不倫は交通事故にたとえられるという話があります。ある意味では「運命的なもの」、またある意味では「注意していれば避けることができた」のかもしれないからです。
とにかく、交通事故の後始末と同様、不倫の後始末もきちんと考えなければなりません。事情はさまざまですし解決法もいろいろですから、絶対に満足できるように解決すると断言はできませんが、お困りの場合はご相談ください。
川崎市中原区の行政書士ですが出張もいたします。