譲歩

遺言書は「作成したこと」も「内容」も生前には誰にも言う必要はありません。しかし、推定相続人(現在、相続が開始したら法定相続人になる人)と相談しながら作成する人も大勢おられます。

相続開始後(親が亡くなってから)に遺言書を開けてみて、誰かが大きな不満を抱くこともあります。遺言書はけっこう効力が強いので、不満を持った相続人は黙ってそれを受け入れるしかないということも多いです。ですから、あらかじめ遺言書の内容を子供たちなどに話しておいて、将来、兄弟姉妹が「縁切り」「絶縁状態」にならないように説得しておこうということがあります。

 

相続分の例

たとえば、「長男は5百万円を相続する。次男は1千万円を相続する。」と書くことにすると、長男は不公平だというでしょう。(事情はあるのでしょうが。)

そのとき親が、長男に

「自分が働いたわけではないのに5百万円もらったら、それは得か損か?」

と尋ねます。長男は

「それは得だ。」

と答えます。

次に、親は次男に

「自分が働いたわけではないのに1千万円もらったら、それは得か損か?」

と尋ねます。次男は

「それは得だ。」

と答えます。そこで親はふたりに向かって、

「それでは、長男も次男も、ふたりとも得をしたのだから不満を持ってはいけない。」

と、何か昔話にあったような理論を展開したとします。本当にこういう遺言書はよくあって、上のような論理を展開する人もいるのですが、この論理はたいてい後づけの理由です。

実際には、はっきりと言えない事情があるのでしょう。その場合、長男は完全に同額にしてほしいという主張を控えて、ある程度、譲歩しないと収まりがつかないでしょう。そうでなければ、親も初めの案を遺言書に書いてしまうだけだと思います。

(長男があまりに強硬姿勢なので、親は腹が立って、『長男には何も相続させず、次男に全財産を相続させる。』と書いた親もいます。)

このように、気に入らないけれども譲歩したほうがよいということが結構あると思います。

内容証明の例

内容証明郵便で無茶な要求をする例をご紹介します。

(例1)

「駅の階段を降りているとき、後ろの人がいきなり吐いて、私のコートとバッグが吐瀉物にまみれた。」という相談だとしましょう。

自分にはまったく落ち度がなく、相手が一方的に悪いのです。しかし相手としても、吐きたくて吐いたわけではなく、トイレに行って吐こうと努力したのですが、我慢しきれなかったとすれば、同情の余地はあります。

 

その場で着替えに使った費用を出し、コートとバッグを弁償し、謝罪し、迷惑料を支払うと言われているのですが、受け取る金額が少なすぎるとのことです。分割払いでもいいからもっと請求する内容証明を送りたいということです。

ただ、話し合いの途中で

「自分だって吐きたくて吐いたわけじゃないんだよっ!」

と言われたことに腹を立てていて、弁償もされたし、謝罪もされたけれども、その謝罪が心からの謝罪とは思えないから、反省させるために高額の金銭を要求する、ということのようです。

どうしても協議が整わなければ、訴訟となるでしょう。

 

(例2)

ある女性が海外出張の帰りの電車の中で、隣に座った人と似たスーツケースだったため、間違えて持って行かれました。後で、お互いに気づいて、警察へ連絡し、結局、持ち主の女性に戻ったけれども、警察署でスーツケースの中身を確認するときに、男性警察官に下着類まで見られて恥ずかしかったとのことです。

30万円くらいのノートパソコンを入れていて、それも異状なく手元に戻ってきましたが、警察署で受け取るまでの数日間、パソコンなしでは困るので、同じ機種の新品をすぐに購入したのです。さらにソフトのインストールとデータの復元に苦労しました。

新品のパソコン代、警察まで行く労力、仕事ができなかった時間、恥ずかしさ、インストールの苦労を合わせて100万円請求したら、

「それはボッタクリだ。」

と言われました。腹が立つから請求額を200万円にする。さまざまな心労と労力はお金に換算できないほどだとのことです。

 

問題を解決するには

上の話は実際の例を改変して紹介したのですが、本当にあるような話なのです。ほかにもたくさんあります。

不愉快な思いをしたのはわかりますが、客観的に相手の立場・事情も考えると、相手は極悪人とは思えません。(なかには、本当に極悪人のような人がいますから、そのようなケースはここでは除外して考えます。)

自分にはまったく責任はなかったとはいえ、相手に要求するものが大きすぎないでしょうか。

そういうときに、当初の主張を見直して、お互いに譲歩しないと収拾がつきません。自分たちで解決できなければ訴訟をするしかありませんが、訴訟には時間・労力・費用がかかります。弁護士にお任せすると時間と労力はあまり気にならないかもしれませんが、費用(弁護士報酬)を考えると、訴訟はやめた方がよいと思います。費用に関係なく、絶対に裁判をしたいのであればそれでよいのですが、相手を厳罰に処するような結果(相手に高額な支払いを命ずる判断)は出ないと思われます。訴訟をして(事実上、負けるので)、なおさら悔しいと思います。

 

そうすると、どこかで譲歩(我慢)して、合意書示談書を作成するほうがよいでしょう。「大人の解決には譲歩が必要」だと思います。たいていは感情的になるから協議が整わないのですが、自分でその譲歩の判断がむずかしければ、こちらからご提案はできると思います。

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