微妙な問題を大雑把に書きますがご容赦ください。
このホームページでは「不貞行為のことを不倫と呼び、不倫は不法行為である。」という前提で話を進めています。そして、「不倫は不法行為なので損害賠償請求(不倫の慰謝料請求)の対象となる。」と説明しています。
不倫は法律上、不貞行為と表現したほうが正確です。本来は、ここでまず不貞行為の厳密な意味(定義)を簡潔明瞭に説明できればよいのですが・・・、ダラダラと長いです。
慣習と法律論
不貞行為は、昔からの定義と現在の定義では異なるのではないかと思います。昔は(昔というのがどのくらい前かも問題ですが)家(制度)を守ろうとしていました。
現在は、なるべく慣習を守る・あえて慣習に逆らわないという人たちと、個人主義(人権かもしれません)を徹底させて「妻は妻、夫は夫、子は子」という考え方の人がいます。
どちらの立場であるかによって、不倫(不貞行為)のとらえ方も異なると思います。もっとも、このふたつの立場を行ったり来たり、中間に位置したりしているのが現代人ではないでしょうか。
「個」と自由を重視する考え方
老若男女を問わず、「他人に迷惑をかけない限り、どういう生き方をしようと自由である。」と考える人は多いでしょうし、こういう考えのどこが悪いのかと問われれば、返答に窮するのではないでしょうか。
日本国憲法第13条において、個人の尊重・個人の尊厳を謳っています。思想上は、「他者加害の原理」「危害の原理」と言われるようです。
『文明社会ではそのいかなるメンバーであれ、本人の意思に反して、権力を行使することが正当であるとされる唯一の目的は、他者に危害が及ぶことを防止することだけである。(略)自分自身だけにかかわる行為に関しては、本人の独立は当然のことながら絶対である。』
こういう考え方でいくと、選択的夫婦別姓は絶対に認められるべきことになります。このホームページの他のページでも書きましたが、「誰にも迷惑をかけないのだから自分たちは一夫多妻制、一妻多夫制、多夫多妻制をどれでも自由に選ぶ」ことも認められるべきだと思います。当事者さえ納得していれば、おそらく他人に迷惑を及ぼすことはないと思うからです。
『 』内の引用はJ・S・ミルの「自由論」の一部ですが、この次に『この他者加害の原理は、成熟した諸能力を持つ人に対してのみ適用されるものである。我々は子供たちや、法が定める男女の成人年齢以下の若い人々を問題にしているのではない。まだ自分以外の人からの保護を必要とする状態にある者達は、外からの危害からと同様、自分自身による行為からも保護されなければならない。』と続きます。
私の浅薄な理解によりますと、「成熟した諸能力を持つ人」とは、豊かな教養を身につけ、成熟した価値判断ができる人をさすものでしょう。豊かな教養と判断力を持つ者だけが、自分のしていることは人に迷惑をかけないのだから、誰であろうと私の行為を止めることは許されない、と主張してよいということかと思います。
はじめに書きましたように、微妙な問題を大雑把に語るのですが、現在では不貞行為を広く考える立場があります。
人間は男女を問わず自由なのですが、法律の規定で不貞は離婚事由とされており、不倫における相姦者は、「婚姻共同生活を侵害し、破綻に至らせる可能性のある行為」に加担した者と認定され、不倫の慰謝料の支払義務が認められます。ということは、男女間の特定の行為だけに着目するとはかぎらないということです。
そうすると、「頻繁に一緒にコーヒーショップで楽しそうに話をしていた」というだけで不法行為となって、コーヒーを飲んでいた当事者は損害賠償請求(慰謝料請求)される可能性も「ないことはない」ということになります。もちろんこれは程度問題なので、不法行為になる「可能性がないとはいえない」ということを大袈裟に紹介しました。
ただし、この立場では、もともと人間は自由であるという前提ですから、上記のような不倫の慰謝料は極めて低額の慰謝料となるのではないでしょうか。実際の裁判例では、500万円の不倫の慰謝料を請求したのに、判決で認められたのは30万円ということもありました。(東京地裁H24/11/28)
慣習に逆らわない
慣習に逆らわない、慣習を重んじる、伝統を守るような人もいます。いつ頃をさして「伝統」というか、いつ頃の慣習を指しているのかも問題です。昭和初期とか、明治、江戸でしょうか。
たとえば、先祖供養という場合、通常は4世代さかのぼります。4世代さかのぼって先祖を探すことを依頼されると、江戸時代の人までたどり着くことはよくあります。
また、江戸時代の長屋等を再現している資料館(深川江戸資料館はよいと思います。)をみると、おそらく昭和生まれの人なら、「小さい頃、目にしたものと似たものがたくさんある。」という印象を受けるのではないでしょうか。台所の流し、トイレの戸、トイレの室内、縁側の造り、塀や垣根、木造家屋の外装など、きっと見たことがある光景でしょう。ですから、江戸というのはそれほど遠い過去ではないというのが私の印象です。
伝統的な考え方をするといっても、それはある程度常識的に考えようという人たちで、特に強い主義主張はないのだと思います。このような人たちは、現在でも家(制度)を守ることが何より大事ということはないとしても、家や先祖を意識し、特に、先祖からの土地・墳墓を通常は長男が承継する、そして、代々受け継いできた家屋敷(不動産)は、後世に引き渡すのが自分の役目だと、多少なりとも考えていることがあります。姦通罪は廃止されましたが、夫も妻も貞操義務を負う、つまり不倫・不貞行為をしていけないという考え方に賛成の人たちです。できれば、不倫の慰謝料請求に懲罰的な意味も込めたいのではないでしょうか。
男女の特定の行為だけに限定して不法行為だととらえる傾向があり、この重大な行為に対しては非常に厳しく臨むので、不倫の慰謝料請求の額は比較的高くなるでしょう。「不倫の慰謝料の相場は300万円だ。」というような話は、こちらのことでしょう。
何か思い当たることはありますか?
以上、微妙な問題を大雑把に書いたので、よくわからないと思われても仕方がありません。このホームページは法律の勉強をする人が読むわけではなく、何か問題を抱えて悩んでいる方がご覧になっているでしょう。
自分のおかれた立場・環境を念頭に読めば、なんとなく何のことかわかる人がおられればそれでよいというつもりで書いています。
下の例も、不貞行為・不倫の慰謝料請求の範囲を広く解釈した例です。
交際はしないが子がほしい
あまり多くはない例ですが、未婚の女性が子供がほしいために、知人である男性(既婚者)から人工授精に協力してもらうということがあります。人工授精は病院で医師がおこないますが、医師にはその男性が自分の夫であるかのように説明しているかもしれません。
この場合、相手の男性の婚姻関係・家庭を破壊するつもりはまったくないのですが、自分の産む子が誰の子なのかわかっています。生まれた後も、この子は△△さんと私の遺伝子を受け継いだ子だということは意識するはずですが、それでも不快にならないくらい、その女性は男性に好感(恋愛感情や好意ではなくても)を持っているわけです。後日、この人工授精のことを△△さんの妻が知れば苦痛であろうと認定されて、不倫の慰謝料請求が可能とされたことがあります。
私の知っている例では、こういう場合、女性は認知も養育費も求めません。
これも不倫と認定され、不倫の慰謝料支払義務が生じることがあるのです。
不倫の慰謝料を支払いたい
配偶者に不倫を疑われ、相姦者だと思われている人に不倫の慰謝料請求の内容証明郵便などが届くことがあります。
その内容証明を受け取った人から、慰謝料を分割払いにする合意書を作ってほしいなどの依頼を受けました。
事情を聞いてみると、いわゆる狭い意味での不倫はなかったけれども、親しくお付き合いしていたので、妻の気持ちを傷つけたことは間違いないから、慰謝料を支払いたいというのです。
おそらく、そういう人は、不倫を狭い意味で考えるか、広い意味で考えるかということではなく、ただ真面目で誠実な人なのだろうと思います。考え方は、やや古風でしょうか。
そういう真面目な人もいますので、いきなり法外な額を提示するとか、「訴訟を起こして絶対に請求する、もし給与などから支払えないならあなたの自宅を競売にかけてでも全力で取り立ててみせる」などとは最初から主張しないほうがよいと思います。(実際、そういう内容証明郵便を拝見したことがあります。そうすると、この内容証明は脅迫だから、慰謝料どうこうの前に、脅迫罪で訴えてやるというやりとになることもあります。ちなみに、これは弁護士が扱う案件と思われます。必要に応じて弁護士事務所のご紹介をします。)
他のことにもあてはまりますが、「相手による」「相手の態度をみてから対応を考える」ことは重要だと思います。
不倫の慰謝料請求はできます
長々と書いた割には要領を得ない内容です。とにかく結論としては、現在、不倫の慰謝料請求をすることは可能です。
請求は可能ですが、自分の婚姻関係は保ちたい(配偶者が不倫をしても、自分は離婚する気はない)ということも非常に多いです。自分の配偶者の不倫を知った直後は激昂していることがありますが、行動する前にとりあえずご相談ください。事情をうかがっているうち、今後どのようにしたいのか整理ができると思います。この「整理」がとても大切です。
はじめの激昂状態のまま突っ走ってしまうと、止まろうと思っても止まれないことがあります。ここまではしたくなかったという所まで自動的に進んでしまうかもしれません。人生を左右しますので、結構、怖いことだと思います。