慰謝料の請求額に明確な基準はありませんが、江戸時代からの不倫の慰謝料額なども勘案すると300万円というのはおかしくはありません。
ただ、婚姻関係の考え方・夫婦のあり方・ライフスタイルの変化に応じて、金額は変動しています。大雑把にいえば、低額化しているでしょう。時代の流れからすると、低額化は一層進むのではないでしょうか。
大金だが払えないことはない額
上に、江戸時代の慰謝料額と書きましたが、当時はよく7両2分といわれたようです。いわゆる中流家庭ではひと月に2両で充分(ゆとりを持って)暮らせたとのことです。ひと月の収入が2両で、慰謝料が7両2分だったとすると、4か月分弱の収入ということになりますが、この収入は現代でいえば自営業者の月収くらいでしょう。
「7両2分」というのは「大判1枚」「黄金1枚」と同じです。これは買い物等に使うことはなく、贈り物や恩賞でした。つまり、「日常的ではない大金」という感覚だったと思われます。しかし、入手不可能な額ではありません。簡単に言うと「大金を支払わせよう」ということで、これは慰謝料(損害賠償金)というより、懲罰的な意味が強いのかもしれません。
現在の我が国では、慰謝料を懲罰としてはいけないことにはなっていますが、事実上、その性質は持っているでしょう。
不義密通は形式上、「死罪」(時期にもよりますが、実際には重禁錮刑のこともあったようですし、たいていは示談にしたので、普通は死刑になることはなかったと思われます)ですから、命と大金を天秤にかければ、当然大金を支払うことを選ぶはずです。
示談での解決
不貞行為があれば不倫の慰謝料請求ができるといわれていますので、物語形式で不倫の慰謝料請求ができない(請求するのは自由ですが、客観的にみて支払い義務がない)という事例を書いてみます。
こういう例をふまえて、大きな法的問題にせず、示談で解決する方法を選んではどうかと思います。
慰謝料がゼロ円の例
太郎と花子は6年半の婚姻生活を送っていましたが、別居することになりました。
このとき、花子はB男と不倫関係(不貞関係)にありました。この関係は花子が積極的に作ったのであり、後日、不倫期間は約1か月継続したと認定されました。
別居から約2年後、太郎と花子は離婚しました。
花子とB男との不倫関係は、太郎と花子の婚姻期間中だったことになります。別居が長く続いた後でもありません。
太郎はB男に、不倫の慰謝料として300万円を請求しましたが、訴訟の結果、太郎のB男に対する慰謝料はまったく認められませんでした。つまり不倫の慰謝料がゼロ円ということです。
配偶者でも慰謝料がもらえず
不倫があったのかなかったのかということになれば、「あった」のですが、婚姻生活に問題があったのでした。
太郎は借金を繰り返し、女性問題を起こし、大酒飲みでした。そのため、花子は家庭から離れて外泊をかさねるようになり、そのひと月後に別居するにいたりました。花子とB男との関係はその頃からです。
花子は、太郎が複数回起こした不倫問題の際も太郎の責任を追求せずに許しました(不倫の慰謝料請求などはしませんでした)が、太郎に嫌気がさしており、婚姻生活から逃れるために外泊を繰り返し、そしてB男との交際にいたったのでした。そういう事情なので、花子に責任はないか、あったとしてもきわめて少ないということになるでしょう。
この状況で、太郎がB男に慰謝料請求することは無理筋・不誠実(信義則違反)と考えられそうです。よって、B男は太郎からの慰謝料請求に応じる必要はない、というものです。
相手のあること
法的判断と常識がかけ離れてしまうことはよくありますが、この例は常識どおりでしょう。当事者が普通に考えればトラブルにするまでもなく解決し、必要に応じて示談書・合意書を作成しておけば済むことですが、誰かひとりが無理なことを言い始めると訴訟にまで発展します。
行政書士として内容証明郵便を送付したり、示談書の提案、合意書の提案はしますが、相手のあることですから、どのように発展するか明確に予測はできません。そういう点も踏まえて、面談のときに「ちょっとした出来事」等も含めてお話いただけると、良い結果につながることが多いようです。エピソードとかちょっと気になったことなどがヒントになることがあります。
ご自分で相手にメールや内容証明郵便を送ってからではなく、その前にご相談いただければと思います。
面談は予約制なので、ご連絡をお願いします。
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