定型約款

「人より偉くならなくてもいいし、金の無駄遣いができるほどお金持ちにならなくてもいいですけど、人にバカにされたり、不当な扱いをされたりしたくはないと思っています。」

私が社会人1年目のときに、たまたま仕事のアドバイスをしてくれた目上の人に、私はこのようにいいました。すると、その人は、

「でも、ある程度の地位やお金を持っていないと、そうはいかないんだよね。」

というような話をしてくれました。苦労なさった人で、65歳になる1か月前に亡くなってしまいましたが、今でも私は尊敬しています。

 

社会には、強者と弱者がいると思います。「弱きを助け、強きをくじく」「弱者の保護」は必要だとしても、それだけでは将来的に世の中が良くはならないのではないでしょうか。程度問題です。

企業、特に大企業と一般消費者ではどうしても有利・不利という問題がありますので、その点を踏まえて、以下、お読みいただければと思います。

定型約款

一般の人があまり気にしてもどうしようもないことかもしれませんが、令和2年(2020年)4月からは民法の定型約款ということも知っておくとよいでしょう。

たとえば、鉄道を使う、電気を使う、銀行を使う、電話を使う、保険に加入するなどの場合には、何に対していくら支払うなどの契約が必要ですが、その際、個別に価格交渉をしたり、取引条件を設定したりません。

民法の原則では、当事者の合意のない契約条項は拘束力がないはずですから、定型約款の規定ができる前は、有効な契約なのかどうか必ずしも明らかとはいえない状態がありました。

相続手続きで銀行に行くと腹が立つ、携帯電話・スマートフォンでは通信事業者(通信キャリア)の尻拭いを消費者がさせられるというような不満は多くあります。「本当にこの契約は有効なのか?!」というお話もよく耳にしました。

携帯電話にしても保険にしても、約款(契約書の一種)は小さな文字で延々と書かれていて、これをきちんと読んだことがある人は普通はいないでしょう。

私がスマートフォンを購入したときも、「この封を切ったら、約款に合意したとみなす。約款に不満であれば、封を切らず、このまま返品してください。」というようなことが書いてありましたが、スマートフォンを手にして、この段階で返品する人はいないでしょう。

約款をチラチラと読むと、購入者に不利なことがたくさん書いてあると感じますが、とにかく一般消費者としては交渉の余地はなく、約款の内容すべてにしたがって使用するのか、それとも使わないのかという二者択一です。結局、約款を読む必要はないといっても過言ではないと思います。

一般消費者にとって事情は従来と変わらないと思いますが、定型約款の規定を作って法律を調えたということかと思います。

定型約款であるための要件

定型約款とは次の要件を満たす契約です。

  • 特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であること
  • 取引内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものであること
  • 「契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された」契約条項群であること

このホームページで法律を勉強するわけではないので、概略だけを書きますと、大企業が消費者に対して、いちいち個別に取引条件を考えるのではなく、あらかじめ取引条件を設定しておき、種類やコースを選んだりオプションの設定ができたりはするものの、一人ひとりの要望を聞いたりはしない、という感じでしょう。ただし、常に大企業とはかぎりません。

逆に、企業としては客を選べませんし、常識的にみて無茶な契約内容にしてはいけません。無茶な内容ではないというのは、理に適っている・消費者に不利だが現実的に仕方がないというイメージかと思います。

 

 

定型約款での合意

上にも書きましたが、約款というのはたいていの場合、印刷された膨大な量の細かい文字の塊(かたまり)です。さらに用語が難解だったりします。ですから、全文をきちんと読まないのが普通の人です。

内容をきちんと把握しないままでは契約が成立したとは言いにくいです。そこで、みなし合意というものを規定してあります。次の4つを満たしている必要があります。

  • 定型取引を行うことの合意
  • 契約の内容とする旨の合意、あるいは、相手方への表示
  • 不当条項に該当しないこと
  • 開示義務に違反しないこと

またしても大胆に簡略に書かせていただきますが(不適切であればご教示願います)、客や消費者が「約款を承認した上で取引を行うことに同意します」というチェック欄に印を付ければ、消費者が約款の内容を見なかったとしても、また理解していなくても、きちんと合意できて正式に契約が成立したことにするということです。

たしかに、文章は読みたくない、長い話は聞きたくないという人は多いですから、やむを得ないですし、むしろ親切と言えるかもしれません。約款の全条項を読まされてから、理解度テストに合格しなければ商品が買えないとなると、それでは困る人が続出するでしょう。

普通の人は読まずに、理解せずに購入したり契約したりするのです。もし無茶な内容であれば合意しなかったものとみなすという規定もありますから、一般の人が一切文句が言えないわけではないということです。企業側の専門家があらかじめ内容を検討して作成した約款で、大勢の人の目に触れるものですから、非常に無茶で、まったく合理性に欠けるということは本来はあまり考えられないと思います。ですから一般の人は気にしなくてよい法律です(といっても過言ではないかもしれない)と、ここでは書いておきます。

勝手に変更されるのか

定型約款の変更については、みなし合意よりも厳格になされるので、相手方(消費者など)の意見を聞かずに変更してよいことになっています。当然のことながら、無茶な内容に変更してはいけません。以下の2つの要件を満たして、あらかじめ周知の手続きをする必要があるものの、これも消費者などが、なぜ変更されるのか、どのような変更なのかを完全に理解している必要はありません。

  • 変更が顧客の一般の利益に適合する
  • 変更が契約の目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、その他の変更に係る事情に照らして合理的なもの

インターネットでの取引など

以上、大企業と一般消費者との関係をイメージすればよいと思いますが、必ずしも「大企業」とはかぎりません。インターネットショップ等にもあてはまりますから、一般の人もひととおり知っておいた方がよいでしょう。

もし、上に挙げた要件を満たしていないと思われる定型約款があれば、相手方にきちんと通知して善後策を講じればよいと思います。

なお、通知する前に、その定型約款を証拠として保存することは忘れないようにしてください。