内容証明郵便の説明としては、かなり長い話になります。単なる読み物ですから、お楽しみいただければよいと思います。
以下の話が現実にあると思うかどうかは、読者の皆さんのご想像にお任せします。
『私』というのが誰なのかもわかりません。
この書き込みの「まえがき」
私は川崎市在住です。
2011年(平成23年)3月11日の東日本大震災の後、福島県郡山市に頻繁に用事があります。
郡山駅から帰ってくるときに、新幹線を上野で降りて帰ってくることが多いのですが、新幹線を大宮駅で降りて新宿湘南ラインを使うと、大宮から武蔵小杉駅まで乗り換えなしです。武蔵小杉駅から郡山駅まで、乗り換えはたいてい1回で済みます。
郡山まで行く時にも、大宮から新幹線に乗ることもあるし、上野のこともあるし、東京駅のこともあります。そうすると、乗車駅・下車駅が異なるので、新幹線回数券を使うのは不便です。
そこで役に立つのが、「普通乗車券の回数券」です。普通乗車券ですから、10回分の料金で11回乗車できます。自動券売機では買えず、窓口で買います。
「東京23区内 ←→ 郡山」
という回数券が特に便利です。窓口では、係員用の発券機を操作して販売してくれます。
これは結構お買い得なのです。神奈川県内から乗車するときは、東京の最初の駅までの乗車券を買います。具体的には「西大井」という駅です。
都内の移動分が割安になるので、こうすると、川崎駅から郡山駅まで一回で買うよりも、ほんの少し安くなります。
新幹線に乗るときには、乗車直前に、都合の良い駅で「新幹線特急券」を書います。
既に何度もこの「普通回数券」プラス「新幹線特急券」の組み合わせで使ってきました。
以上が前置きです。
ここで、「事件(?)」が起きました。
回数券が買えない
回数券はどこの駅でも買えますから、郡山駅、川崎駅、武蔵小杉駅、NN駅、などで買っていました。ある日、NN駅で、いつものように回数券を買おうとしたら、窓口の担当者が、
「お売りできません。」
とのこと。
「どうしてですか?」
「遠すぎるので、回数券は売れません。」
「3年くらい前から、もう何度も買っているんですけど。領収書もありますよ。」
「領収書があってもなくても関係ありません。規則によって売ることはできません。」
「どういう規則ですか?」
「回数券は200キロ以内の駅までしか売れないのです。」
「今まで何度も買っていたので、もう一度規則を確認してください。」
「わかりました。間違いないんですけどね。」
と、駅員室の奥へ入って、数分(数十秒?)後、戻ってきました。
「やはり間違いありません。」
「でも、何年も、いろいろな駅で買っていたんですけどね。ところで、発券機には『東京23区内から郡山』という設定で販売できるようにプログラムされていますよね?」
「されていますよ。」
「じゃあ、売ってください。」
「だから、売ってはいけないという規則があるのです。」
「機械では、販売できるように設定されているのに、売れないんですか? しかも3年以上、いろいろな駅で買ってきましたけど。」
「今まで購入できたのなら、それは売った係員の判断間違いです。売ってはいけないのです。」
というわけで、その係員のKKというお名前を聞いて確認し、「どこの駅でも売ってはいけないのですね。」と確認して、KKさんの目の前でメモを取りました。
その後、隣の駅まで電車で行って、そしていつものように購入しました。何の問題もありません。
さて、今後、どうしたらよいのでしょうか? 回数券は買えるのか、買えないのか? それによっては、郡山までの移動方法を考えなおさなければなりません。
そこで、お問い合せ窓口(カスタマーセンター)に聞いてみました。
お問合せ窓口Aとのやりとりは、
「NN駅のKKさんの対応が正しいです。200キロまでしか回数券は販売できませんから。」
「では、今まで買えたのは、間違って買えたのですか? いろいろな駅で買いましたけど。」
「・・・。」
ということで相談終了。
お問合せ窓口Bとのやりとりは、
「東京23区内からという回数券はありませんよ。」
「えっ、今まで何度も買っていたし、領収書もありますよ。」
「・・・。」
ということで相談終了。
お問合せ窓口Cとのやりとりは、
「今までも買っていたのですか?」
「はい、郡山、東京、上野、川崎、NNなどで。」
「買ったのはいつですか?」
「何度も買いましたが、NNでの最後は2か月くらい前でしょう。」
「事情を調べて、折り返しお電話します。」
ということで、電話を切りましたが、私も回数券について調べてみました。
回数券は200キロまでの駅の間で発行するが、別途、会社が認める場合はその限りではない、ということがわかりました。
参考までに書いておきますが、こんな規則があるかもしれません。
(普通回数乗車券の発売)
第39条 旅客が片道200キロメートル以内の区間の各駅相互間(ただし、山陽本線(新幹線)中新下関・小倉間及び鹿児島本線(新幹線)中小倉・博多間にかかわるものを除く。)を乗車する場合は、当該区間に有効な11券片の普通回数乗車券を発売する。
第39条2項 前項の規定によつて普通回数乗車券を発売する場合、1券片の区間は、片道乗車券を発売できるものに限るものとする。
郡山駅から東京のいくつかの駅までの距離を調べました。といっても、駅から駅までの距離が問題なのか、郡山市の端から東京と埼玉の境界線までを測るのかがわかりません。
ここに書いた距離は、全部、駅から駅までです。
郡山から在来線でやって来て、東京で最初の駅は、「赤羽」か「浮間舟渡」です。数百メートルの誤差はあるとしても、みんな明らかに200キロを超えています。
郡山 → 赤羽 213.5キロ
郡山 → 浮間舟渡 216.6キロ
郡山 → 上野 223.3キロ
郡山 → 東京 226.7キロ
確かに、200キロまでと決めたのはわかりますが、では、その駅との距離が、201キロだったら販売できないのでしょうか。それではあまりに杓子定規です。
さらに調べると、やはり、そういう場合に融通が利くように、会社(鉄道会社)で別の取り扱いをすることができると規則に書いてあります。
第39条3項 第1項の規定にかかわらず、当社が特に必要と認める場合は、片道200キロメートルを超え300キロメートルまでの区間に対しても普通回数乗車券を発売することがある。
折り返し電話が来ました。
「旅客規則で、200キロまでしか回数券は発行できません。」
「でも、例外規定があるのですよね?」
「はい。」
「それは旅客営業規則39条で、例外は39条3項ですよね?」
「はい、そのとおりです。」
「では、なぜNN駅では買えなくなったのですか?」
「規定では、『会社が決める』となっていますが、実際には、各駅の駅長に決定権があります。」
「では、同じ会社でも、駅が違えば、買えたり買えなかったり、そして駅長が変わるたびに買えたり買えなかったりすることもあるのですか?」
「そうです。」
調査・確認を怠る
この辺で、だいたい事情はわかりました。
NN駅のKKさんは、「回数券は200キロまで」という規則は知っていても、それに例外規定があることを知らなかったのでしょう。
地方都市の大きな駅が、東京から201キロの距離だったら、この200キロ制限の規則では大きな不都合が生じるはずです。もし、NNさんがそういう視点でこの規則を勉強したら、その不都合に気づくはずです。そして例外規定が設けられていることも簡単に理解し記憶できたでしょう。しかし、そいういうことを考えなかったので、「回数券は200キロまでしか販売できない。」とだけ暗記していたのではないでしょうか。
そして、係員の操作する券売機には、東京23区内と郡山駅との回数券が発売できるようにプログラムされているにもかかわらず、
- 「機械が間違っている」
- 「今までの係員が判断を間違えた」
- 「自分が正しい」
と信じたのでしょう。
私が、「確認してほしい」と言った時にも、確認するフリをしただけで、実際には旅客規則の例外規定を確認せずに、「自分が正しい」と言ったとのだと思います。
損害賠償請求
細かい話になりますが、私には損害が生じています。厳密に、これで損害賠償請求ができるのかという問題はあります。
NN駅で販売してくれなかったので、隣の駅まで片道130円、往復で260円、本来支払う必要のない乗車券を購入し、往復の時間も労力も無駄にしたという損害です。
自分たちを正当化するために、お問合せ窓口Cでは、「駅長の権限で販売しなかったのだから、KKさんにも会社にも責任はない。」と言ったのでしょう。
しかし、おかしいです。KKさんは、東京23区内と郡山駅間の回数券は販売できない、もし他駅で販売した係員がいれば、その係員の判断間違いだと胸を張って言っていたのですから。
この記事を書いた時点での情報ですが、(これは架空のお話なのだから、いつの出来事でも関係ないし、確認のしようもないのですが)、以下の2点を追記しておきます。
第39条3項に基づき、東京23区内から郡山までの回数券は、係員の操作する券売機で販売できるようにプログラムされています。
東京の一番北の駅である「赤羽駅」から福島駅(郡山駅より遠い)までは、259.6キロあり、係員の操作する発券機でも、販売できないようにプログラムされていることはわかっています。
内容証明郵便を使うなら
この件をはっきりさせるためにとりうる手段としては、まず、内容証明郵便があります。もちろん実際には、何かすればするほど私の損害は増します。
内容証明郵便を作成し、これまでの経緯を通知します。そして、
「他駅で販売したことが、会社規定に反するという、事実と異なる説明をしたのはなぜか。」
「何年も購入してきたという実績をもとに購入に行ったが、急に変更された理由は何か。」
という照会をしてみます。
そこで、回答がなければ、本社や代表取締役社長宛に、同じ趣旨の内容証明郵便を出します。
その駅長のもとで、その時期に、200キロ以上の回数券が売られた証拠があれば、費用を度外視して訴訟も可能かもしれません。
内容証明郵便の使い方はたくさんありますが、「事実を記す」というのは重要な役割です。
特に、行政書士の作成する内容証明としては重要だと思います。
行政書士の内容証明
内容証明郵便を出したことで、何らかの解決が得られるのか、訴訟に勝てるのか、あるいは、何かをすればするほど損害が増すのか、ということは考えておかなければなりません。
それによって、弁護士に依頼するのか、行政書士に依頼するのかということにも影響します。
しつこく言いますが、弁護士と行政書士は、一般法律職という点では共通するのですが、私の知る限り、行政書士はいったん社会に出て、何かを感じて行政書士業務を始めます。
多くの弁護士は、大学在学中から司法試験合格に向けて熱心に勉強し、一般企業では「中堅」と言われるような年齢になるまで勉強を続けた人です。業務内容も、業務の進め方も違うと思います。報酬額も違うはずです。
私が260円程度の損害にこだわって100万円使う気があれば、かなりのことができると思います。それでもやるのか、それとも泣き寝入りするのかということは、内容証明郵便送付だけでなく、不倫の慰謝料請求、遺産分割協議(相続手続き)などでも考えておくべきことです。損得を重視するのか、真実追求・謝罪要求が目的なのかは考えておいたほうがよいです。
つまらない例をあげてしまいましたが、内容証明郵便の使い方のひとつの例です。本当につまらない例だと思いますが、現実にはこのような出来事がからみあって、もっと大きな問題になっていることもあるでしょう。
内容証明で「自分が確認した事実を、書面で通知」します。絶対にこの内容が正しいとは言えませんが、少なくとも、その日時での自分の認識を「公的に」残したのです。
内容証明郵便に文書で回答したことは証拠となります。回答しなければ、答えられない事情があるか、少なくとも誠意のないことはわかります。回答しなかったことが、「何らかの事実」を示していることは想像できます。
調査と確認
上の例は、係員が機械まかせにせず、自分で考えたところまでは立派なのですが、勉強不足だったことと、その場で実際に確認をしなかったという怠慢のせいで起きたことでした。
切符を売る・売らないの問題でしたからたいしたことにはなりませんが、場合によっては財産を失ったり、大惨事につながる態度・思考方法だと思います。
自分の現在知っている知識だけで処理してしまおうという態度が危ないことはご理解いただけると思います。勤務態度・思考方法というのは、いつでも同じように重要です。
ここでやっと本来の話になるのですが、専門家といっても常に勉強し、新しい情報を仕入れています。以前は合法だったことが、今は違法だったりもします。ちょっと心に引っかかるものがあるときは、念のため調査しています。
また、私の考え方次第で、相談の聞き方・解釈の仕方も異なってくるだろうと思うと、今までの自分の考え方で良かったのかどうか不安になります。
質問に即答できることが必ずしも立派ではありませんので、調査のための時間をいただきたいことがあります。調査してから、ご連絡・回答します。
クロをシロにする
それにしても、お問い合わせ窓口Cの言い訳は上手でした。
「片道200キロメートルを超え300キロメートルまでの区間に対しても、当社が特に必要と認める場合は発行できる。」という「当社」とは、社内規定により「駅長」と読み替えるというのです。実際には「それぞれの駅の駅長の裁量」だというわけです。これが嘘だということはすぐに分かっても、これを正式にひっくり返すには、かなりの労力が必要ではないでしょうか。
映画やドラマでやっている「無敗の弁護士」のイメージは「お問い合わせ窓口Cの担当者」かもしれません。どんな案件でも勝つ。たとえクロでもシロにする(本当は自分の側が悪いのに、自分には何も責任がないように決着させる)ということは頻繁かどうかはわかりませんが、現実にある話です。ここでは書きませんが、他にも体験があります。
社会では結構「嘘」がまかり通りますから、
- 真実はどうか
- 人としてどうか
- どの程度が妥当な幕引きか
ということを総合して考えてみてください。
違法でないなら、どんなに道徳的に非難されようとも、気にしなければそれまでですが、日頃、生真面目な人が「ずるく責任を逃れる」と、あまりよくない結果になるような気がします。(正直者が、思い切ってついた嘘はバレやすいというようなことです。)
無料相談
川崎市中原区を本拠とする彩行政書士事務所では、電話でのお問い合せをいただくとき、発信番号を「非通知」になさっていると通じないことがあります。「事故防止のため」といっていますが、意味をお分かりいただけるでしょうか。
ひとことで答えられるようなことや一般論ですと、有料とするほどのものではありません。量販店のカメラ売り場で、「このカメラと、あちらのカメラを比べると、どちらの画質が良いですか?」と相談するようなものです。店員さんが受け答えしてくれますが、私は料金(相談料)を支払ったことはありません。(ちなみに、どちらのカメラも購入しませんでした。)
内容証明にしても、示談書にしても、遺言書や遺産分割協議書にしても、最終的にたった数枚の紙になってしまいますが、背景にはたくさんの事情や家族の歴史(年月)があります。
無料でお答えするような短いものですと、事情が十分に把握できていないことがあり、電話を切ってから、
「もしかしたら、相談内容の意味を取り違えたかもしれない。」
「事情次第では、別の結論になるかもしれない。」
と思うことがあります。
あるいは、念のため判例を調べておこうというケースもあります。
有料相談や、受任してからメールのやりとりなどをしていれば、訂正や修正、また別の観点からの説明もできますが、一回限りの電話で訂正が不可能となっては困るのです。簡潔な相談で、相談料をいただくほどのことではないから、簡単にお答えしたのですが、無料相談とはいえ、間違ったことをお伝えするわけにはいきません。(念のため申し上げておきますが、正式に受任していない件について責任は負いかねます。)
そこで、後で、こちらからお電話をさし上げることもあります。(勧誘ではありません。)
これは、正規に受任し、面談・相談をしているときも同じなのですが、珍しい相談ですと、お答えする前に、条文・判例・慣例でどのように扱われているかを調査する必要が生じます。
日頃から勉強しておく必要があることはもちろんですが、そのときになってから調査する場合もあるということをご理解いただきたいと思います。
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