事実婚における婚姻費用分担

『自分(A)は、好きな人(B)と一緒に暮らしはじめました。
自分が住んでいた賃貸マンションでは狭いので、新しい賃貸マンションに引っ越しました。
生活に必要な家具・家電製品なども購入しました。

一緒に暮らし始めて3か月後、Bは「一緒に暮らしたくない」と言って出て行きました。

自分は、共に暮らしはじめたときから、お互いに「生涯の伴侶・パートナー」だと思っていました。

事実上の婚姻、事実婚がありますが、自分たちの場合、これは「事実上の離婚」とならないでしょうか。離婚であれば、財産分与のような手続も生じるはずです。

共に暮らすのに必要な費用(マンション・家具など)は、どちらが用立てても同じことだと思っていました。実際に、ほとんど自分が用意(立て替えた)ので、それを精算したいのだけれども、Bは応じてくれません。
きちんと精算して、後でお金のトラブルなどが生じないように、合意書のような書面にしておきたいのですが、まず内容証明郵便で通知するとよいでしょうか?』

上のようなご相談はよくあります。

Aさんは、事実婚・内縁関係だと思っていたのですが、Bさんはどう思っていたのかが不明です。おそらく、ふたりの会話の中では、何らかの合意があったのだとは思うのですが、今となっては明らかにする方法がありません。ほとんどの口約束は法的な効力もあるのですが、書面などがなければ、後日、事実関係がわからなくなります。

事実婚なのか

法律婚でも事実婚でも、権利・義務、メリット・デメリットが(人によって感じ方が異なるでしょうが)あります。事実婚であることを主張するにはどうしたらよいでしょうか。

賃貸マンション入居時に、賃貸契約はひとりがして、同居の相手方を「婚約者」としている場合がよくあります。同居人欄の続柄に「妻(未届)」あるいは「夫(未届)」とか「事実婚の配偶者」のように記載してあると、事実婚であるという客観性が多少なりともあるでしょう。また、これは手間のかかる手続ではないので、書こうと思えば簡単です。

誰かと共に暮らしはじめて、単に住民登録をすると、住民票にはその人のことが「同居人」となるのが通常です。
単なる「同居人」ではなく「事実婚の配偶者」だと主張するには、世帯変更届を出して、
同居人を
「妻(未届)」または「夫(未届)」
に変更するとよいといわれているようです。

事実婚であることを公正証書にするとよいという人もいます。

試用期間

婚姻前にとりあえず共同生活を始める人たちは多くなったようです。将来的に(たとえば、子供が生まれるときに)婚姻届を出すとしても、それまでは事実婚・内縁関係というカップルは多いです。

就職ですと「試用期間」があるように、婚姻にも「試用期間(試婚期間)」があるとよいという意見を聞いたことがあります。
実際、そう遠くない過去に「足入れ婚」というものがありました。婚姻前の共同生活は、足入れ婚とは目的がかなり異なると思われますが、「正式な婚姻前」という共通点があります。この古い習慣が変形して復活したとも思えませんので、新しい慣習ができてきたのかもしれません。入籍の価値が低下していることもあるでしょうし、相続などの関係なら、どちらかが死亡するまでに入籍すればよいという感覚があるのかもしれません。(「死亡するまでには・・・」では不利益が生じる可能性もあります。)

確かに、ある程度暮らしてみないとわからないことがあるでしょう。そして、「試用期間」ですから、夫婦として暮らす意思はまだ十分ではないと思われます。もちろん戸籍には何の記録も残りません。

もし双方合意の上での試用期間であれば、きちんと約束をしておくでしょう。先のことをきちんと考えておく人たちに問題は生じにくいと思われますが、もし、そのための書面(合意書・念書のようなもの)が必要であればご相談ください。

事実婚の夫婦

ただ仲がいいから一緒に暮らしはじめたのではなく、夫婦として暮らす意思も実態もあり、単に婚姻の届出がないだけであれば、いくつかの例外を除いて婚姻と同一の法律的取扱いをされるのが通常です。
そうすると、婚姻費用の負担、日常家事債務の連帯責任、帰属不明財産の共有推定も認められることになるでしょう。

内縁配偶者の一方死亡の場合、他方配偶者の相続権はどうなのかという問題ですが、死亡が配偶者以外の相続人にも影響するため、配偶者としての届出がない内縁関係・事実婚においては、相続権はないとされています。

内縁配偶者との死別であれば、生前贈与や遺贈という方法によって配偶者の生活をあらかじめ保護することが可能ですが、不和による内縁関係・事実婚の解消となると、一方が大きな財産的ダメージを受けかねません。そうならないように、一層、内縁配偶者を保護する必要がありそうです。

内縁関係・事実婚によって生じた財産分与・婚姻費用の負担・日常家事債務の連帯責任・帰属不明財産の共有推定はきちんと請求し、精算すべきだと思います。

(内縁関係と事実婚がどう違うのかをはっきりとさせないまま、私は両方ともほぼ同じような意味で使ってきました。しかし、用語の印象は結構違うと思います。
現在はほとんどの人が事実婚というでしょう。また、「配偶者」といわずに「パートナー」とよぶでしょうか。)