不倫の慰謝料を受け取るときに、相手方から
「慰謝料は支払うので、『この件でさらなる請求はしないし、今後は一切あなたに連絡もしないことを約束する』という念書をください。」
と言われたらどうしますか。実際、そういうことはあるのです。
A男とB女が不倫関係にあり、A男の妻がB女から慰謝料を受け取るときの会話です。A男の妻としてはちょっと腹が立つのではないでしょうか。
示談書は必要か
慰謝料等損害賠償金の授受をする場合、受領証や示談書・合意書を作成しない人もいます。お金を支払ってそれですべて終了ということです。口約束でも法的には問題ありませんから、当事者がそれでよければそれでいいのです。それで最終解決した例を私も知っています。
ただ専門家が手続きを依頼された場合は、受領証や示談書・合意書を作成するのが原則です。口約束だけで済ませてしまっては、証拠がないので後で困るかもしれません。最終的に解決するのかどうかが、信頼と運まかせではプロの仕事とはいえないからです。
(しかし、もし請求の内容証明郵便だけ作成して、示談書・合意書が不要な場合はその旨、お知らせください。)
責任追及はしない
さて、上の記述の続きです。
慰謝料を支払っても、それで最終解決したという約束とその証拠がなければ、「前回受領した慰謝料ではまだ十分とはいえないから、追加の請求をされる」ということもあり得ます。それどころか、前回の支払いさえ無視され、まだまったく支払っていないことにされてしまうかもしれません。
ですから、損害賠償金・慰謝料の授受をする場合、支払う側は「この金銭を受け取ったことをもって、更なる責任追及をしません」という合意書等がほしいというのは「正論」なのです。
しかし、正論であっても、教科書的な、問題集の解答のような正しさのような気もします。
損害賠償金等を支払う人は加害者で、謝罪する立場の人です。謝罪する立場なのに、
「『お金を受け取ったので、これ以上文句は言わない』という書面をください。そうでなければ損害賠償金を支払いません」
と言われると、被害者(慰謝料を受け取る人)からすれば、「そんなことを言う人は反省していないのだろう」と感じるかもしれません。
しかし、客観的にみても、お金を払い、お金を受け取り、約束(合意条件)を守るかぎりこの件についてはすべて終了したという書面はあった方がよいと思います。
作成費用
そういう場合に役に立つのが第三者としての専門家です。当事者自身でおよその話し合いがついたので、手続き・書面の作成は専門家に依頼するということになれば、当事者は双方とも感情的になる可能性はかなり低くなると思います。(およその話し合いがまとまる前からご相談を受けていることが多いです。)
ちなみに、こういう場合の書面作成費用は誰が負担するのかですが、どうしなければならないということはありません。
(1)さらなる請求や問題の「蒸し返し」を避けるという点では、合意書等は支払う側にメリットがあると思います。ですから、支払う側が合意書作成費用を負担すべきという考え方もあるでしょう。
(2)慰謝料を受け取って、ひとまず解決したが、今後も約束を守る必要があることを明らかにしておき、「再発防止の効果」をもたせるという点では、受け取る側にメリットがあります。
結局、双方で折半するのがもっとも理に適っているともいえますが、慰謝料額で協議した後、合意書作成料金も折半するとなると新たな問題が生じることがあります。
(3)慰謝料を支払う側の人が「あなたが専門家に依頼したから余計な費用がかかった。専門家がいなくても解決できたはず。私は支払う必要がない」のように、もうひとつ協議事項が発生してしまう場合があります。そういうことを避けるために、依頼人がすべてを負担して、できるだけ早く一連の手続きを終了させたいというケースも少なくありません。