名前の話

賃貸マンションの契約時に戸籍上の姓を使ったけれども、毎月の家賃の振り込みは旧姓で行っていたとすると、契約者と家賃を払っていた人が同一人物であることを証する書面が必要となることがあります。

その書類を揃えることはできますが、手続きというものは面倒ですから、なるべく簡易にやりたいと思うのは賃貸人も賃借人も同じでしょう。あとでやろうと思っているうちに時間が過ぎてゆく・・・というのは結構困ります。

 

上はほんの一例ですが、婚姻後、戸籍上の姓だけを使うか、それとも日常生活や仕事上は旧姓を使うのかという問題があります。

流行が関係するかもしれませんが、非常に重要だと考えている人は大勢おられます。

婚姻に際して

夫婦の共同生活で、共通の姓を名乗るのか、各人の生まれたときの姓を名乗るのか、何を基準にどう考えられているでしょうか。

姓を受け継ぐということは家を継ぐことで、さらに、家を継ぐということは土地を後世へ継がせることという考え方もあるようです。

また、婚姻の際に双方の姓を比べてみるて、非常に読みづらいとか、画数が多いので書くのが疲れるとか、あまりにもゴツイ感じがするなどということを総合判断して、ふたりが気に入った方を選ぶという夫婦もおられるようです。

婚姻時に姓を創設してよいということであればどうでしょうか。たとえば、青木さんと黒田さんが結婚して、姓を山田さんにするようなことです。新しい姓は、縁もゆかりもないものでも可能かもしれません。賛成する人は多いでしょうか。

ただし、身分証明書等には、旧姓も記載しておくと国際的にも役に立つでしょうし、混乱や不正の防止効果もあると思います。

以上はあくまでも仮定の話です。この場合に「アイデンティティーはどうなる」ということも気になります。

氏名とは

氏・姓・名字・苗字など、現在でははっきりと区別されていませんので、ひとまずここでは、たとえば「青木 太郎」さんの「青木」の部分を「姓」ということにします。

有名な例としてよくあげられるのが徳川家康公の「なまえ」です。

『源朝臣徳川次郎三郎家康(みなもとのあそみとくがわじろうさぶろういえやす)』

  • 源 → 氏(うじ):血縁関係
  • 朝臣 → 姓(かばね):役職
  • 徳川 → 名字(みょうじ):出身地・支配地
  • 次郎三郎 → 字(あざな)・仮名(けみょう):通称
  • 家康 → 諱(いみな):本名
  • 竹千代 → 幼名(ようみょう):諱が付くまでの本名

(上の解説が間違っていましたらぜひご連絡ください。)

私は以前、【妻・夫、どちらの姓を称するのか】という記事を書いたところ、次のようなお話をいただきました。

なまえがアイデンティティーだというのは、自分が誰の血を受け継いだかを父母の姓から明らかにしたいのではなく、生まれたときのなまえが一部でも変更されるのは、自分のそれまでの人生を否定されることだからである、ということでした。(他にもいろいろな意見があるでしょう。)

現在、氏名こそがアイデンティティーを守る最後の砦だという考えの人もおられるようですが、歴史的には「竹千代」が「家康」となり、それ以外の部分も省略したり変更したりするのは普通のことでした。武田信玄公は、名字を武田 → 逸見 → 武田と名字を変更しています。

姓や名字は変わるもの

そうすると、青木太郎さんが、黒田花子さんと結婚して、黒田太郎にすると、「黒田さんという家族」で暮らしている太郎さんという意味であって、青木太郎さんが結婚して黒田を名乗っても、それは人生の軌跡とでもいうもので、太郎さんが「青木太郎」であった時期を否定することにはならないでしょう。歴史的な「なまえ」の成り立ちからして、姓を変えてもアイデンティティーを失わせたりすることはないと思います。徳川家康も役職が変わって「朝臣」から別の姓に変わってもおかしくありません。青木さんが黒田さんになっても新しい人生の1ページが加わったのだと考えられないでしょうか。

ただ、こういうことは理論上のことや由来とは関係なく、時代とともに変遷する可能性は十分ありますから、今後、どのように変わっても不思議ではないと思います。

 

 

姓・氏・名字・苗字は、夫婦間はともかく、親子(特に、父と子)の関係で、後になって問題になるケースがあるようです。

また、相続のときに、被相続人(亡くなった人)の姓を受け継いでいる相続人とそうでない相続人との立場が、遺産分割協議書作成のときに考慮されることもあるようです。これは、その家族・親子の考え方次第です。遺言書で遺産の分け方を指示しておくこともできます。

 

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