婚姻中に配偶者の一方がした借金は離婚後どうなるのか
結婚してから、「夫婦の財布をひとつにする夫婦」もあれば、「それぞれに収入があり、自分のものについては自分が支出し、共同生活に必要な費用はそれぞれが等分に負担する夫婦」も多いです。
離婚するときに離婚協議書をきちんと作っておくべきですが、その際、疑問が生じることがあります。相手方配偶者の金銭債務(借金)について、「離婚した後、夫(あるいは妻)の借金の請求を自分(妻、あるいは夫)が受けることはありませんか。」とよく尋ねられます。
夫婦の財産
以前は、結婚すると、夫は給料袋を妻に渡し、妻が家計のやりくりを考えながら、夫に小遣いを渡す夫婦が多かったそうです。大きな買い物は夫婦で相談しますが、相談内容は「買うか・買わないか」であって、夫と妻のどちらがいくら支払うのかということは問題になりません。夫婦が一心同体であり、運命共同体であると考えるなら当然このようになるでしょう。現在でもこのようにしておられる夫婦は少なくないようです。
一般に夫婦がどのように考えているかはともかくとして、現在の法律では「夫婦別産制」とされており、民法762条に規定されています。
「夫婦の一方が婚姻前から有していた財産、および婚姻中に自分の名前で得た財産は、その者の個人的財産となる」
とされています。法にこのような規定があっても、必ずそうしなければならないというものではなく、夫婦ごとに自由にやればよいことです。ただ、揉めた場合には「法の規定どおり」になると考えておけばよいでしょう。
夫婦財産契約
民法756条というほとんど使われていない法律があり、
- 婚姻前から所有している財産を夫所有・妻所有・共有にする
- 婚姻中に夫婦が取得する財産をすべて夫の所有・すべて妻の所有・すべて共有にする
- 夫婦が共同生活する際の費用をすべて夫が負担・すべて妻が負担・それぞれの財産に応じて分担する
- 離婚した場合の財産分与の額や割合を決める
などいろいろなことを決めておくことができます。ただし、ほとんど使う人がいないせいか、この法の解釈には問題もあるようです。
たとえば私が大実業家で、婚姻前からすでに毎年数十億円の年収があるとします。おそらく婚姻中もそのくらいあると思われます。総資産はどんどん増えそうです。婚姻後の夫の収入は、原則として妻との共同の財産で、離婚時には半分ずつにするのですが、離婚時には最高でも100億円までしか妻にはあげないということも、この法によって可能でしょう。
夫婦別産制と異なる扱いにしたければ、きちんと取り決めをしておかなければならないというものですが、重要なのは、この夫婦財産契約は姻届出前に締結しておかなければならないことです。さらに、対外的に(第三者に対して)も主張するなら登記までしなければなりません。たとえば、夫が自分で(自分の名で、自分が買主として)高級ゴルフクラブ一式を買いに来たけれども、夫に財産はなくすべて妻のものであれば、妻の承諾がなければゴルフクラブの代金をもらえない可能性もあります。このようなケースなら登記をしておかなければ販売者が困ります。
夫婦財産契約は、契約内容を変更する方法を定めておかなければ、婚姻届出の後、契約内容そのものを変更することはできなくなります。
夫婦の共有財産
夫婦別産制で一緒に暮らしている夫婦にも、共用・共有のものがたくさんあると思います。夫と妻のうち、どちらのものか分からないこともあるでしょう。そういうときは、民法762条2項により共有とします。
また、民法760上では、夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する、となっています。
特に夫婦財産契約をしていない場合も、夫の月給の半分を妻に渡すとか、食費については妻が負担するとかいうような夫婦内の約束(堅苦しい言い方をすれば「契約」です)するのは自由ですが、婚姻後の夫婦間の契約は、第三者に損害を与えない限り、いつでも取り消すことができる(民法754条)とされています。このことと夫婦財産契約とは別のものです。
夫婦の代理権
妻がお米を注文しました。お米屋さんが届けたところ、妻は不在で、夫だけがいました。そこで、夫にお米の代金を請求したら、
「私は注文していないから支払いません。妻が注文したのだから、妻に代金を請求してください。」
といわれると、お米屋さんは納得できないでしょう。かといって、ふたりで食べるのだから、ふたりでお米を買いにこなければならないとすると、かなり世の中は混乱するでしょう。
そこで、「日常の家事に関することなら、夫婦はお互いに代理する権限がある」とされています。ふたりで食べるお米をふたりで買いに行く必要もなく、妻が夫の委任状を持っていく必要もありません。ふたりとも支払義務があるでしょう。
代理権とは
通常、成年になると「法律行為」が自分でできます。簡単に言うと、大人は自分で土地やマンションの売買をして、自分で不動産登記をして、不動産業者とトラブルになれば自分で訴訟を起こして、自分で裁判所で弁論をしてくればよいのです。ただ、普通は、自分で不動産登記をするのは難しいし、自分で裁判の書類を作成するのは大変ですから、専門家に代理でやってもらうでしょう。
このように本来、自分でする法律行為を、誰かに依頼するのが代理です。(「代理人」とは別に「使者」というのがあります。使者は簡単に言うと「使いっ走り」なので、自分の判断で交渉したり、判断したりしません。)
不動産の登記をするときも、登記手続きをする人は、「自分の不動産を登記するのではないが、購入者の○○さんに代わって、私が手続きをしに来ました。いちいち購入者本人に確認しなくても、私が任されました。」という宣言が必要です。委任状などがあると、代理権があることがわかります。
夫(妻)の借金を代わりに支払うのか
妻が夫とともに食べるお米を買いに行くのに、夫の委任状を持っていくのは常識的におかしいでしょう。ですから、「夫婦の共同生活で、日常的に必要なことについては、お互いに委任状などなくても、正当な代理人であり、代理行為ができる」とされています。
ただ、「常識」というのは意外と難しく、「自分の常識は、他人の非常識」ということがよくあります。(たとえば、内容証明郵便で不倫の慰謝料請求をしても、「不倫は悪くない。私ひとりが言っているのではなく、私の職場では不倫をするのは常識です。」という人もいます。ただ、不貞行為の慰謝料請求については、民法上の規定がありますから請求権があるのですが、「そもそもそういう法律がおかしい。」という主張をする人も少なくありません。)
婚姻中に、妻(夫)がした借金について、離婚後に元夫(元妻)に返済請求されることはあるのか、ということになると、
「日常の家事に関することなら、返済義務がある。」
ということになるでしょう。
これは離婚協議書でも問題になるかもしれませんが、事実婚の解消のときに困ることが多いです。事実婚の期間中にした買い物・借金などを清算するのがスムーズにいかないケースがよくあります。賃貸マンションの賃料・敷金についての契約者はわかっても、契約の主体がふたりだということが曖昧になったりします。
日常の家事とは
お米を買うくらいは日常の家事で、夫婦共同で消費するものだろうとは思いますが、大型テレビはどうでしょうか。ホームシアターの設置工事一式ではどうでしょうか。その夫婦の生活ぶりを知っていて、その程度はあの夫婦ならふたりで相談するまでもなく、どちらが決めてもいいことで「日常の家事」であると思うかもしれません。
そこで、「夫婦の一方が日常の家事に関する代理権の範囲を超えた法律行為をし、相手方(たとえば業者さんなど)が、それをその夫婦の日常家事に関する法律行為であると信じ、そのことに正当な理由がある場合には、相手方を守るために、「日常家事だから、委任状がなくても正当な代理人と認める」ことになり、妻にも夫にも支払義務があるとされています。
結局どうなるのかというと、
- やたらと日常の家事は認定されません。
- 一般に、日常の家事は高額ではないでしょう。
- また、良心的な業者さんと、真面目な夫妻であれば、協議で話し合いがつくことが多いです。
- 事実婚の解消のときになって、自分たちは同棲していただけということがあります。
川崎市の行政書士
川崎市中原区を本拠としますが、川脇市はとても長細い地形で、東京にも横浜にも近く、千葉・埼玉との交通も便利です。
川崎市内はJR南武線が貫くように走り、JR川崎駅は大きなターミナル駅です。
武蔵小杉で東急東横線と交差し、溝の口で田園都市線と交差し、登戸で小田急線と交差し、さらに稲田堤で京王線と乗り換えられます。
東急東横線は、地下鉄との乗り入れが盛んにされています。
このように交通が便利なので、出張も容易です。小さなお子さんがいる場合や、介護で忙しいなど、出張がご希望でしたらお申し出ください。
土曜・日曜・祝日だけでなく、
仕事が終わってからの19時・20時からの面談なども、ご予約いただければ可能です。
時間外のメールはもちろんですが、時間外の電話もできる限り対応できるようにしています。電話に出られない場合は、なるべく早くかけ直しますので、できれば「内容証明の件」「不倫の慰謝料の件」「離婚相談」「示談書の件」というように、ひとことメッセージをいれていただけると助かります。