授業料

消費者契約

大学受験のときに、受験料を支払います。
合格すると、たいていはすぐに入学金と授業料を支払う必要があります。

しかし、その大学が第一志望でないこともありますから、他大学も何校か受験して、その中から、最も進学したい大学を選ぶというのが一般的でしょう。

受験料だけでもなかなかの金額になりますが、これは仕方がありません。受験料が問題になることはほとんどありません。

合格した人は、一定の期限までに入学金と授業料を納付することになるようです。
その学校に入学せずに、他校へ進学したい場合、入学していないのだから入学金を払う必要はない、授業は受けないのだから授業料を払う必要はない、と考える人もいるでしょう。

実際、そういう問題が起きて、最高裁判所で審議されました。これは消費者契約の問題でもあります。

消費者の損害賠償額を予定する条項等の無効

消費者契約の解除にあたって、違約金の額を定めてある場合、その違約金などの内容が同種の消費者契約の解除で、事業者(この場合は学校)が受けるであろうとされる平均的な損害の額を超える場合、その超える部分について無効となります。(以上、条文の文言をまとめたので、厳密には条文をお読みください。)

「いかなる理由によっても、一度受領した金銭は一切返還しません。」と説明書(契約書)に書かれていましたが、必ずしもこの文言は有効ではないということになります。

企業ですと

「説明書(契約書)に規定されているから」と聞いて、私などがすぐに連想するのは、パワハラ関連の問題です。一般に、企業などで

「当社のルールは、契約書に書いてあったり、既に説明済みのものである。既に決定し、過半数の同意を得た。その後に採用された人は、この規則を知った上で入ってきたのだから、必ず従わなければならない。『悪法も法である。』 規則の変更を希望する場合は、正規の手続きによること。それでも不満のある者は、みずから当社を去ればよい。」

というケースがあります。
民主主義とか、多数決原理とか、悪法も法(法治主義のこと?)とか、いろいろなことが言われるようですが、大切な考え方・原理原則が欠落していることがあるようです。

パワハラ」「ブラック企業」に関しては、内容証明郵便などで解決することもありますが、たいていは立場の弱いものが損をするのでしょう。

学校と学生・生徒では、どちらの立場が強いのか昨今はよくわかりませんから、「パワハラ」「ブラック企業」と同様に考えてよいかどうかはっきりしませんが、入学金と授業料をめぐる問題については目安があります。
消費者と事業者という点に注目した人がいるということがすごいと思います。

最高裁の判断

平成18年11月27日の最高裁判決です。

  • 1 大学と当該大学の学生との間の在学契約の性質 :大学と当該大学の学生との間で締結される在学契約は,大学が学生に対して,講義,実習及び実験等の教育活動を実施するという方法で,大学の目的にかなった教育役務を提供するとともに,これに必要な教育施設等を利用させる義務を負い,他方,学生が大学に対して,これらに対する対価を支払う義務を負うことを中核的な要素とするものであり,学生が部分社会を形成する組織体である大学の構成員としての学生の身分,地位を取得,保持し,大学の包括的な指導,規律に服するという要素も有し,教育法規や教育の理念によって規律されることが予定されている有償双務契約としての性質を有する私法上の無名契約である。
  • 2 大学の入学試験の合格者が納付する入学金の性質 :大学の入学試験の合格者が納付する入学金は,その額が不相当に高額であるなど他の性質を有するものと認められる特段の事情のない限り,合格者が当該大学に入学し得る地位を取得するための対価としての性質を有し,当該大学が合格者を学生として受け入れるための事務手続等に要する費用にも充てられることが予定されているものである。
  • 3 大学と在学契約等を締結した者が当該在学契約等を任意に解除することの可否 :大学と在学契約又はその予約を締結した者は,原則として,いつでも任意に当該在学契約又はその予約を将来に向かって解除することができる。
  • 4 大学の入学試験の合格者による書面によらない在学契約の解除の意思表示の効力 :大学の入学試験に合格し当該大学との間で在学契約を締結した者が当該大学に対して入学辞退を申し出ることは,それがその者の確定的な意思に基づくものであることが表示されている以上は,口頭によるものであっても,原則として有効な在学契約の解除の意思表示であり,入学試験要項等において所定の期限までに書面で入学辞退を申し出たときは入学金以外の所定の納付金を返還する旨を定めている場合や,入学辞退をするときは書面で申し出る旨を定めている場合であっても,解除の効力は妨げられない。
  • 5 大学の入学試験の合格者が当該大学との間で在学契約等を締結して当該大学に入学金を納付した後に同契約等が解除された場合等における当該大学の入学金返還義務の有無 :大学の入学試験の合格者が当該大学との間で在学契約又はその予約を締結して当該大学に入学し得る地位を取得するための対価としての性質を有する入学金を納付した後に,同契約又はその予約が解除され,あるいは失効しても,当該大学は当該合格者に入学金を返還する義務を負わない。
  • 6 大学の入学試験の合格者と当該大学との間の在学契約における納付済みの授業料等を返還しない旨の特約の性質 :大学の入学試験の合格者と当該大学との間の在学契約における納付済みの授業料等を返還しない旨の特約は,在学契約の解除に伴う損害賠償額の予定又は違約金の定めの性質を有する。
  • 7 大学の入学試験の合格者と当該大学との間の在学契約等の消費者契約該当性 :大学の入学試験の合格者と当該大学との間の在学契約又はその予約は,消費者契約法2条3項所定の消費者契約に該当する。
  • 8 大学の入学試験の合格者と当該大学との間の在学契約における納付済みの授業料等を返還しない旨の特約に関する消費者契約法9条1号所定の平均的な損害等の主張立証責任 :大学の入学試験の合格者と当該大学との間の在学契約に納付済みの授業料等を返還しない旨の特約がある場合,消費者契約法9条1号所定の平均的な損害及びこれを超える部分については,事実上の推定が働く余地があるとしても,基本的には当該特約の全部又は一部の無効を主張する当該合格者において主張立証責任を負う。
  • 9 大学の入学試験の合格者と当該大学との間の在学契約における納付済みの授業料等を返還しない旨の特約に対する消費者契約法9条1号の適用の効果 :大学の入学試験の合格者と当該大学との間の在学契約における納付済みの授業料等を返還しない旨の特約は,国立大学及び公立大学の後期日程入学試験の合格者の発表が例年3月24日ころまでに行われ,そのころまでには私立大学の正規合格者の発表もほぼ終了し,補欠合格者の発表もほとんどが3月下旬までに行われているという実情の下においては,同契約の解除の意思表示が大学の入学年度が始まる4月1日の前日である3月31日までにされた場合には,原則として,当該大学に生ずべき消費者契約法9条1号所定の平均的な損害は存しないものとして,同号によりすべて無効となり,同契約の解除の意思表示が同日よりも後にされた場合には,原則として,上記授業料等が初年度に納付すべき範囲内のものにとどまる限り,上記平均的な損害を超える部分は存しないものとして,すべて有効となる。
  • 10 専願等を出願資格とする大学の推薦入学試験等の合格者と当該大学との間の在学契約における納付済みの授業料等を返還しない旨の特約に対する消費者契約法9条1号の適用の効果 :入学試験要項等の定めにより,その大学,学部を専願あるいは第1志望とすること,又は入学することを確約することができることが出願資格とされている大学の推薦入学試験等の合格者と当該大学との間の在学契約における納付済みの授業料等を返還しない旨の特約は,上記授業料等が初年度に納付すべき範囲内のものである場合には,同契約の解除の時期が当該大学において同解除を前提として他の入学試験等によって代わりの入学者を通常容易に確保することができる時期を経過していないなどの特段の事情がない限り,消費者契約法9条1号所定の平均的な損害を超える部分は存しないものとして,すべて有効となる。

専門家らしくないと言われそうですが、上の文のただ読んでもわかりにくいので、注意点をものすごく大雑把に言っておきますと、

  • 入学金は戻ってこない、
  • 授業料は戻ってくるけれども、
  • AO専願の場合は気をつけて。

ということでしょうか。

学校も企業も似ていると思いますので、そういう点で参考になる事例かもしれません。

 

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