求償権の放棄と合意書

長い記事ですので、お忙しい場合は全部お読みいただく必要はありません。ここで大切なのは【不貞行為の慰謝料について3名で協議する必要はない】という部分です。法律の勉強をするわけではないので隅々までお読みいただかなくても大丈夫です。

 

我が国では昔から離婚は事実上自由だったようです。自由というのは離婚要件を備えていることを証明などする必要がなく、自分たちの都合で自由に決められるという意味です。少なくとも江戸時代にはそういう文書が残っています。何らかの離婚理由はあるでしょうが、離婚が妥当かどうか審査されるようなことはありませんでした。もちろん夫婦の一方が離婚を拒んでいれば話は複雑になるかもしれません。

現在でも夫婦間で合意して離婚届を提出しさえすれば離婚はできますが、一方が離婚を拒んでいたとすると裁判上の離婚が考えられます。

民法では「夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる」として、5項目が示されています。そのうちのひとつが「配偶者に不貞な行為があったとき」とあります。

不貞行為があっても離婚にいたらない夫婦は多いのですが、不貞行為は不法行為に該当しますので慰謝料請求の根拠となり得ます。

誰に慰謝料を請求するのか

なぜ慰謝料を請求できるかというと、心に傷を負わされたからです。どのくらい傷ついて、どうしたら癒されるのか正確にはわかりません。

しかし不法行為があって、被害者がいるので、過去の反省と将来の安心・安寧のための方法が用意されています。具体的には、不貞行為という不法行為について何らかの形で損害を賠償してもらうことが考えられます。

不法行為をしたのは不貞のあった配偶者(夫とか妻)とその相手方(不倫相手)ですから、不法行為を受けた被害者は、不貞のあった配偶者とその相手方に慰謝料を請求できます。

道で複数の暴漢に殴られたら

たとえば甲さんが道を歩いていたら、ゴロツキのAとBに殴られて怪我をした場合、医療費等をAにもBにも請求できます。暴行の8割はAがおこない、Bは2割で、医療費等の損害賠償額が100万円だとすると、

  • Aに80万円
  • Bに20万円

という割合で責任を負うと考えるとわかりやすいでしょう。AとBにそれぞれ請求できますが、

  • Bだけに100万円

を請求しても構いません。請求されたBは甲に「自分の責任の分である20万円しか払わない」というわけにはいきません。100万円を支払わなければなりません。

Bとしては全額支払ったとしても、後に、Aから80万円をもらえば不公平感はないでしょう。これを求償といいます。

相手方だけに慰謝料請求

ここでは夫が不倫をしたという設定で書きますが、ケースによって「夫」を「妻」と読み替えてください。

たとえば夫に不貞行為があっても、夫に慰謝料を請求しないことはよくあります。結婚生活で夫婦の財布(財産)をひとまとめに考えていると、夫から妻が慰謝料をもらっても、自分の財布から出したお金を、また自分の財布にしまうようなことになります。だから、夫に請求しても意味がないことになるでしょう。

慰謝料を「請求される側」と「請求する側」に分けると次の図のようになり、夫と不倫相手がひとつのチームになっているような感じがして気分がよくないかもしれません。

そういうわけで、夫と相手方との不貞行為によって傷ついた妻は、相手方だけに慰謝料を請求したいと考えていることが多いです。そうすると、

のようなイメージかと思います。

夫と相手方の負担割合

上の例にあげたような「ゴロツキのAとBに殴られた」という場合、責任割合を定めて慰謝料の負担額決めるでしょう。不貞行為の割合も同様に責任割合などを考慮するのが原則です。

しかし、実務上はそれを厳密に検証することは困難なことが多いです。慰謝料の請求額の決め方も理論上はいろいろありますが、現実にはなかなかそのようにはいきません。

いつから交際が始まったかでさえ明確でない(客観的に特定できない)ことがあります。そうすると、夫と相手方の責任割合は曖昧なまま、慰謝料請求などをすることになります。よくわからないので、請求額は低めに設定するのが普通です。

ここで「慰謝料請求など」と書きましたが、「など」というのは、たとえば慰謝料額は少なくてよいから、事情を説明する書面を提出させたいというようなことがあります。これを反省文と呼んでいる人もおられるかもしれません。

合意できなければ訴訟を

責任割合の合意ができなくて協議がまとまらないということなら訴訟をしてください。裁判所が証拠に基づいて結論を出してくれるでしょう。証拠がない事項についてはそういう事実がなかったことになるのではないでしょうか。場合によっては、不貞行為そのものが認定されないかもしれません。

3名で協議する必要はない

多くの場合、不貞行為発覚直後から、夫と相手方には連絡・面会等をしないように約束させますので、協議の手順がわからないというご相談があります。

合意書作成のために妻と夫と相手方が必ず3名で協議しなければならないものではありません。

妻は相手方だけに相手方自身の負担分を請求し、求償権の放棄を約束させることがほとんどです。負担分を正確に算出できないので、請求額は低めに設定するのが普通です。しかし、

  • 妻が、目一杯の慰謝料額を受け取りたい
  • 相手方が、妻から提示された請求額では到底承服できない

ということになって訴訟になるケースもあります。

不貞のあった配偶者にも

上の例とは違って、たとえばこの不貞行為を機に離婚するなどの事情があって、夫の意思に反してでも夫に可能なかぎり多く支払わせたいという方もおられます。この場合も弁護士事務所にご相談いただくとよいでしょう。

しかし、離婚後の生活費などのため、ご夫婦間で意見調整をしながらなるべく多く受け取りたいということなら、彩行政書士事務所でお引き受けできると思います。

財布が別々の夫婦の場合

民法上は夫婦別産制が原則で、たとえ夫婦でも夫のお金と妻のお金はそれぞれ別ですし、実際、夫婦共に働いて、別々に収入があることもあります。お互いに生活費を出し合っているようです。

そういう場合に、離婚はしないけれども夫に慰謝料を請求するという妻からの(あるいは夫からの)相談も承っています。