未成年者と「取り消し」
次のようなケースをどう思いますか。実際にあった出来事をもとに書いています。
「19歳の一郎君は、祖父からもらった壺を持っていました。一郎君は、せいぜい3万円くらいの価値の壺だと思っていました。
ところが、アルバイト先の店長がその壺を30万円で譲って欲しいというので、一郎君は喜んで売りました。
それを聞いた一郎君の父親が、あの壺は50万円で取り引きされるくらいの壺なのだからといって、一郎君と店長の売買取引を取り消しました。(未成年者のした売買取引などは、親などの親権者が取り消すことができます。)
しかし、店長から30万円を受け取った一郎君は、海外旅行をして既に20万円を使ってしまいました。また6万円で宝くじを買いました。
一郎君の父親がこの売買取引を取り消したので、お互いに、「原状回復」するのが原則です。
店長は壺は返すから、30万円返金してほしいというのですが、一郎君の父である太郎さんは、未成年者の法律行為を取り消した場合、現に利益を得ている限度において返還の義務を負うのだから、4万円だけ返還すると言っています。
(売買代金30万円)-(海外旅行で費消した分20万円)-(宝くじ6万円)=4万円
という計算です。
未成年者と原状回復
店長がしたいことは、
「一郎君は何度も海外旅行に行っているし、バイトのお金で自動車も買っており、貯金も100万円以上あるとのことなので、やはり30万円全額を返金するのが常識である。そのように請求する内容証明郵便を出したい。」
ということです。それなら、そのように内容証明を送ればよいと思います。
ここで考えるべきことは、
- 未成年者との契約なので、未成年者側からの取消しが可能であることは間違いありません。
- 取り消せば、お互いに相手から受け取ったものは返還しなければなりません。(原状回復・不当利得)
- 店長は壺を返しますが、壺を壊したり傷つけたりすれば、その損害賠償もしなければなりません。
- 一郎君は未成年者なので、民法121条により「現に利益を得ている限度において返還の義務を負う」のであって、一般には、生活費や授業料に充てた分は、生活費・授業料に支払うために用意したお金が別にあるはずだから、それを返済に充てなさい、遊興費として費消した分は失くなってしまったのだから、その分まで返還しなければならないとすると、未成年者は借金をして支払わなくてはならないかもしれません。それでは未成年者をわざわざ保護した法の趣旨を没却するので、既に使ってしまった分は返還しなくてよいとされています。だから、一郎君の父親は、
「海外料費用 20万円」と「宝くじ代 6万円」
は支払う必要がなく、残りの4万円だけ支払うと言っているのです。
しかし、一般の感覚からは納得できません。常識的に考えて、借りた金額である30万円の返済義務がある、と内容証明で請求し、協議が整えば合意書を作成するのが最良かと思います。
民法の試験では、「生活費や授業料に充てた分は現存利益があるので返還義務があるが、遊興費は返還義務がない」と解答すれば、とりあえず正解となるようですが、現実にはどうでしょうか。
未成年者の保護
『戦死者の遺族に対する扶助料を未亡人に対して支給すべきところ、厚生大臣が誤ってその子に3年間支給したので、国がその子に対し支給額の返還を求め』た、という裁判があります。(高松高判昭45・4・24)
判決は、扶助料はすべて生活費や学費に費消されてしまい、返還請求を受けた時点では、見るべき財産もしくは貯えもなく・・・苦しい家計のやり繰りに腐心するような状態であり、被告が得た利益は有形的に現存しないばかりでなく、それを得たことによって喪失を免れた財産もないので、被告には現存利益はないと認めるのが相当である、というものでした。
要するに、未成年者が未熟な判断で契約をしてしまって、返金したくてもお金がなくなってしまったというなら、未成年者に借金までさせて返還させるのでは、未成年者を保護する法律を作った意味がなくなってしまうというのと同じ考え方でしょう。
未成年者が契約で現金を手に入れたら、すぐに遊興費に使ってしまって、それから取り消しをすれば得をするように作った法律ではないはずです。
この例では、一郎君がお金に困っていないことはわかると思います。予想外の現金が手に入ったから使ってしまったというのでしょうが、自分の貯金もあります。それなのに返さないというのは、一般常識もで道義的に考えてもおかしいでしょう。
また、自分が既に海外旅行に十分なお金を持っていたから海外旅行を計画したのか、それとも、壺のせいで思わぬ大金が入ったから海外旅行をする気になったのかということも実際には気になるところです。
まして、6万円で購入した宝くじで50万円当選したらどうでしょうか。それでも、店長に返還する金額は4万円でしょうか。
もし、どうしても一郎さん側が4万円の返済を主張し、店長が30万だというのなら、法律で決することになるでしょう。そういう場合は弁護士事務所をご紹介します。
費用と時間と労力を使って裁判をすることは普通はせず、話し合いで合意するものですが、どうしても話し合いで合意できないなら訴訟しかありません。
「法律では、こうなっているはず」とか「裁判をしましょう」ではなく、協議・内容証明郵便での主張をして、合意書等を作成することをお勧めします。
協議・内容証明・合意書
基本的にわが国では、訴訟を好みません。実際、費用も時間も労力もかかりますから、余程のことでない限り、訴訟は避ける人が多いのです。
話し合いをして、その場で結論を出すのは難しいです。よほど議論に慣れた人でないと、即答はできません。
協議も初めから口頭ですと、
「あの時はそう思ったが、後で考えなおしたらやはり納得できない。」
ということになりがちです。
しかし、その場合、相手方は
「あの時、これでよいと言ったのだから、今更、変更することは許さない。」などと強く言ってくることがあります。「大人げない」などと言われるとつらいものです。
「言うことが二転三転する。」
「嘘をついた」
などと言われ、立場も悪くなります。初めから書面にすれば、そんなに複雑にならなくて済んだのに、ということがよくあります。
ただし、書面にすると、訂正も難しいですから、慎重に書きましょう。
あなたの主張したいことを聴き取って行政書士が文書にします。これが「権利義務に関する書類」の作成業務です。
彩行政書士事務所では、内容証明郵便・協議書・合意書・示談書など全国対応しています。面談・電話・メール等で内容を確認しながら業務を進めます。必ず面談しなければならないものではありませんが、内容にもよります。
川崎市中原区の行政書士
川崎市中原区に本拠を置く行政書士なので、東急東横線・JR南武線の武蔵小杉で面談をしています。
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