損賠賠償額の相場

内容証明郵便を送る理由はさまざまです。「~をやめてください」と通知だけしても一般に効果は大きくないと思います。「あなたのしていることは不法行為だからそれをやめてください。やめなければそれなりの対処をします」と伝えるなら内容証明郵便を送ると何らかの効果があるでしょう。

精神的損害

損害賠償請求はもともと既に起きたことを問題にするのですが、現実には、今後同様のことが起きないようにという意味合いも強いことがあります。特に不倫の慰謝料請求では、過去に重点を置く人と、将来に(予防効果に)重点を置く人がおられる印象です。

壊した物品についての損害賠償額はある程度決まってきますが、それに付随した精神的な損害額は明確にはわかりません。

大切にしていた自転車に傷を付けられた場合、傷を埋めて塗装をして、見た目には傷があったことはわからなくても、検査器具を使えば傷の痕跡はあるでしょう。また、かつて傷ついたという事実の記憶は残っています。つまり「キズ物」になったという悔しさは残るでしょう。

この悔しさがどの程度のものかは人によって違いますし、悔しさが金銭で贖われるのかどうかも確実ではありません。この場合、修理でなく新品への交換要求もよくありますが、修理が不可能などのケースでなければ法的には認められないでしょう。

協議の結果、新品を渡すことにする人もいるでしょう。新品と引き換えに古い自転車を引き取ってもいいし、古い自転車の他に新品を渡すのも協議次第です。

よくわからないものの賠償額は判例を参考にして相場といっているかもしれませんが、お互いの経済力・金銭感覚を基準にする方法もあります。

不倫の慰謝料請求ではかつては300万円前後が相場だと聞いていましたが、私が実際に関与したケースでは10万円から900万円までありました。もっとも慰謝料額はゼロでいいから誓約書を差し入れるというようなケースもよくあります。上に書きましたように、過去よりも未来志向ということがあるのでしょう。

自分のケースでは損害賠償額はいくらが相場でしょうかと尋ねられることがよくあります。一応の相場を紹介し、今回のケース(過去の清算・原状回復を主な目的とするのか、本当は将来の安心を重視するのか)など、お話をうかがって私の参考意見は申し上げます。こちらから損害賠償請求額を指定することはありませんが、このくらいなら目的に合った解決ができるのではないでしょうかということはなるべくお伝えしたいと思っています。

被害者としては高額であればあるほどよいでしょうが、たとえ希望額より低くても「賠償金を支払わせる」ことは「何度も口頭で謝罪される」より一般的には効果があるだろうと思います。

「賠償金を支払わない」ということは「反省していない」という可能性も高いです。その場合は訴訟も辞さない覚悟が必要だと思います。

お金がない

賠償金を支払う気持ちはあるがお金がないと主張する加害者はよくいます。本当にないのかもしれませんが、実際の例としては「ある」場合が多いです。あるいは「(お金を)作る」「借り入れる」こともよくあります。

お金があるかないかの例ですが、歯医者さんでインプラント治療をするとします。高価です。だいたい1本が50万円弱でしょうか。「それは高くて」と感じられるとは思うのですが、毎日の食事が快適になるのならどうでしょうか。これから数十年生きるとして、その50万円を1食あたりで計算すると、それほど高くはないと思う人も多いでしょう。自家用車に300万円とか500万円支出する人は多いので、歯が1本50万円なら喜んで出せる額かもしれません。ちなみに、人の歯を折ってしまった場合の損害賠償額は100万円という裁判例があるようです。(インプラントの話になってしまいましたが、私がインプラントを推奨しているわけではありません。)

もうひとつ、別の例で

相続が気になり始めて、兄弟姉妹でちょっと議論になっているとします。親がたとえば長女を呼んで、「他の子ではなく、あなたに全部の遺産をあげようと思う」と言われたとします。その言葉どおりになるように遺言書という形にしようと考えて、専門家に依頼するのではないでしょうか。しかもこういう場合は費用のかからない自筆証書遺言ではなく、弁護士に依頼するケースがよくあります。

弁護士に遺言書作成を依頼するケースはあまり多くないのですが、もらえる遺産が1億円などとなれば遺言書作成料金の多寡はあまり気にならないでしょう。もし、遺産額が100万円だとすれば弁護士に依頼することは少ないかもしれません。

つまり「大きなもの」には費用を惜しまず、「小さなもの」には費用を出しません。

自分の加害行為がたいしたことはないと思えば賠償金・慰謝料は出さずに謝るだけ、加害行為が大きなものだと思えば賠償金もそれに応じて出すでしょう。(本当になければ出しようがありませんが。)

加害者の年収からしても、その賠償額が高すぎではないかと思われるケースもあるのですが、「自分が悪いのだから請求されたとおりに(値切ったりせずに、言い値で)支払う」(しかも分割払いだったり、ローンを組んででも)という人もいます。

おにぎりにG

あまりに嫌いなのではっきり書くと寒気がする人もおられそうなので「G」と書きましたが、ゴ○ブリのことです。

コンビニのおにぎりにGが入っていた場合

  •  おにぎり代139円
  •  医療費数千円
  •  慰謝料

おにぎりを1個139円としてみました。だいたい以上のものを請求できるでしょう。

慰謝料ですが、体調に何の異変もなかったとしても非常に不快なので、その賠償としての金銭です。

この場合の慰謝料とは具体的にいくらなのかというと、ある弁護士さんは10万円弱と考えているようでした。すべての弁護士さんが同じように考えているかどうかはわかりません。

このケースで、損害賠償請求の内容証明郵便を送りたいという依頼者がいたとすると、全部ひっくるめて10万円で納得するかどうかが問題です。「不快感」はプライスレスな(金銭に換算できない)ので、50万円でも100万円でも足りないということになるかもしれません。

金額を左右するもの

ここで、重要なのはそのおにぎりを販売した店のスタッフの対応です。「口の利き方」でその後の展開が天と地ほども変わります。

10万以下で円満に収まるのか、あるいは弁護士を雇い、場合によっては裁判所まで行くのかという違いが生じます。

この種のことは以前にも書きましたが、苦情に最初に対応するのはあまり責任・裁量権のないスタッフでしょう。

ここで対応が悪いと客は感情的になります。揉めたり複雑化すると、その場の状況・経緯をスタッフが上司に報告するでしょう。このとき、客が感情的になった理由を伝えません。というより、自分がその理由を理解していないから上司に報告するはずがないのです。上司としては、スタッフに落ち度はないのに、客が理不尽なクレームを付けていると思ってしまいます。そして理不尽に対しては断固として対処しようという幹部もいます。

上に「修理でなく新品への交換要求もよくありますが、(中略)法的には認められないでしょう」と書きましたが、こういうことをストレートに被害者側に言う人もいます。

「修理できるものは修理で対応するので、もし不服があれば訴訟でもいいですよ。」(こういう言い方ではないのですが、言われた方からすると、こういう感じに聞こえるのだと思います)という対応をすればストレスが高まります。

うっかり何かを壊したとか事故など、保険で賠償金が支払われる事案もあります。「この件は、加入している保険で賠償されるから、すべては保険会社に言ってください。保険で賠償されない部分は要求できないということですから、無茶な要求はしないでください」というような対応をする人も結構多いです。昔からの慣習ですと、謝罪に行ったりするのですが、そういうことをしない人が増えているかもしれません。

このようなことが損害賠償請求をするとかしないとか、金額を高くするのか低くするのかということに影響してくると思います。

宿泊客の感想】も参考までにご覧ください。