遺留分侵害額請求

遺言書に、相続遺産について「相続人の相続割合」や「何を誰にあげる」と書いてあって、特定の人にだけ少ないとか、本来遺産を相続すべき人に相続分がまったくないことがあります。
遺言書の内容によっては、遺留分侵害額請求の問題が生じます。遺言書を作成するときの注意については【遺言と遺留分】をご参照ください。

そもそも遺言とは

昔の戦国武将が死亡するときには、側近の者たちが「最後の言葉」を聞き取って、後日、跡継ぎなどの発表をすればよかったのでしょう。
今でも、最後に自分の子供たちなどに口頭で伝えれば、それが「遺言」になると考えている方がおられますが、それは今では通用しません。もっとも、法的効力がないだけですから、相続人全員がその言葉を「遺言」として、それに従うのでしたら問題はありません。

戦国武将が考えていたことは「お家の存続」と思われますが、「家制度」が法的になくなったために、遺言の役割も昔とは違います。
相続財産について、誰に何割相続させるのか(遺贈するのか)が唐突に書かれていて、自分の予想と大きく違っていたら相続人は戸惑うでしょう。

遺言書は、相続人が戸惑わなくて済むように作成しておくのが一般的ですが、遺言書があるために相続人がいがみ合うとか、遺言書があるから相続がスムーズに進まないこともよくあります。

相続できない相続人?

遺言書がある場合に、特定の相続人が極端に相続分が少ないことがあります。最も少ないのは「相続するものがゼロ」(まったく相続財産のない人がいるとか、ひとりだけに全部相続させる)とされている場合です。

親子の間でも仲が良いとか悪いとか、気の合う子と合わない子がいるかもしれません。それでも、子は子であるし、法律では、相続人が「自分は相続人だから何か相続するものと思っていた」という「期待」を、ある程度尊重するのが普通です。また、相続人と親しい関係の人が亡くなったのですから、死亡を機に生活が一変しても困ります。そのため「遺留分制度」があります。

遺産相続の決め方

相続財産をどうやって分けるのか、その分け方の基準は何かということですが、まず

  • 有効な遺言書があれば、その遺言書の内容にしたがって相続されます。
  • 遺言書がなければ、相続人の遺産分割協議で決めます。遺産分割協議といっても、とにかく話合いがまとまって、銀行から来た書類等に全員が署名押印するなら、遺産分割協議が整ったということになります。しかし、勘違いや、「言った・言わない」でトラブルがないように、書面にしておく方がよいでしょう。
  • 有効な遺言書があっても、相続人全員の同意で、遺言書とは違った相続も可能な場合があります。
  • 遺産分割協議が成立しなければ、調停手続きをします。これは話し合いとはいえ、訴訟のつもりでいた方がよいかもしれません。
  • 調停が不調であれば、審判手続きによります。

裁判所を利用して、結局、相続人がみんな笑顔で終わったということを聞いたことがありませんので、少々気に入らなくても遺産分割協議で決めることをお勧めします。裁判で決めてもらわなくても話し合うつもりさえあれば、少々時間はかかっても調うだろうと思います。

相続人同士というのは、「赤の他人」とは違って特に仲が良いこともある一方、非常に仲が悪いこともありますので、直接に話し合うと、まとまる話もまとまらなくなるかもしれません。その場合は書面で協議をすることをお勧めします。その書面のやりとりが、そのまま遺産分割協議書へとつながるだろうと思います。当事務所がその書類の原案作成からお手伝いします。

遺留分とは

被相続人が他に贈与や遺贈をしても奪われることのない一定の割合が残されています。これを遺留分といいます。もう少しわかりやすくいうと、相続人が希望すれば、ある程度は必ずもらえるということです。

ただし、相続財産の中に大きな負債がある場合は、相続放棄を選択した方がよいかもしれません。お気を付けください。

遺留分は、法定相続分の2分の1のことがほとんどですが、詳しくはご相談ください。

兄弟姉妹

亡くなった人に配偶者も子もいない、そして親も祖父母も他界しているとなれば、相続する順番は兄弟姉妹となります。兄弟姉妹が相続人の場合は、遺留分はありませんのでご注意ください。法律では、兄弟姉妹は子よりも遠い存在として扱うようです。「兄弟は他人の始まり」という言葉がありますが、いかがでしょうか・・・?

たとえば自分の子には、ある特殊な事情がない限り、そして子が一定割合の遺産を欲しいと主張すれば、遺留分として必ず財産を遺すことになります。

しかし、兄弟姉妹には遺留分権がないので、手続きの仕方次第で、自分(被相続人)の財産をまったくあげないことが可能なのです。遺言書をじょうずに使いましょう。

遺言書が重要

兄弟姉妹が法定相続人だとしても、遺留分がないということは、兄弟姉妹には何もあげないことができるということです。これは非常に重要なことで、兄弟姉妹にも遺留分の請求権があると思っている人が遺言書を書くと、見当違いな内容になりますので、遺言書を書くときには行政書士等に相談なさることをお勧めします。確認だけでもなさった方がよいでしょう。【兄弟姉妹と遺留分】もご参照ください。

遺留分減殺請求 川崎 中原区

遺留分侵害額請求

遺言書で、あまりに少ない財産しかもらえない(あるいは、まったくもらえない)ように指定されている相続人は、遺言者の意思に反するとしても、法に定められた最低限の額(遺留分)を請求できます。

遺留分を誰に請求するかというと、亡くなった人の財産をもらった他の相続人などです。この手続きを「遺留分侵害額請求」といいます。これは令和元年7月1日からの規定で、それまで遺留分減殺請求といわれていたものを改訂したものです。遺留分侵害額請求をするのに訴訟を起こす必要はありませんが、請求したことを証明する必要がありますので、内容証明郵便を使ってください。

内容証明郵便で遺留分侵害額請求をしても自動的に自分の口座に遺留分に相当する額が振り込まれてくるわけではありません。遺留分侵害額請求をする前の準備、請求してからの手続きが難しいのです。

遺産額全体の何割かが自分の遺留分ですから、遺産額全体を把握しなければなりません。財産開示の制度もありますが、あまり現実的とは思えません。相続人だけで協議しても結論がでないかもしれません。ご自分のケースを具体的に専門家に相談するとか、遺産分割協議に専門家が立ち会って、法的なアドバイスあった方がよいでしょう。ただし、行政書士は、誰がもっと遠慮すべきだとかということは言いません。

遺留分の算定

遺留分を算定するための財産の価額は、

(相続開始時の財産額)+(贈与した財産額)−(債務の全額)

とお考えください。贈与は「受贈者が相続人以外のものである場合」と「受遺者が相続人である場合」に分けて算定します。

  • 受贈者が相続人以外のものである場合:相続開始前の1年間にされた贈与。ただし、贈与した人とされた人が遺留分権利者に損害を加えることを知っていたときは1年より前のものでも算入します。
  • 受遺者が相続人である場合:「婚姻もしくは養子縁組のためまたは生計の資本として受けた贈与」で、相続開始前の10年間にしたもの。ただし、贈与した人とされた人が遺留分権利者に損害を加えることを知っていたときは10年より前のものでも算入します。

受遺者が相続人である場合、婚姻もしくは養子縁組のためまたは生計の資本として受けた贈与に限定していますが、令和元年7月1日の民法改訂以前は、相続人に対してされた贈与はすべて無制限に参入することになっていました。

遺留分侵害額請求の時効

遺留分侵害額請求できる期間を簡単に言いますと、遺留分侵害額請求権者が遺留分を侵害されたことを知ったときから1年以内に請求(普通は内容証明郵便で)しないと権利を失います。相続の開始から10年経過しただけでも同様に権利を失いますから、お気を付けください。1年くらいはすぐに経ってしまいます。10年も意外と早いです。

カドが立ってはいけないとためらっていたりするうちに、あっけなく権利を失ってしまいます。意を決して主張してみたところ「時効ですよ。」と言われてしまうとかなりショックを受けることと思います。心当たりのある方は、すぐにご相談ください。まだ方法があるかもしれません。

本当に期限を区切って

遺留分侵害額請求はほとんどの場合、内容証明郵便を使いますが、たくさんもらった他の相続人などに「遺留分を請求するよ」というと、「そんなことをしなくても来月、渡すから」「今、病気だから、その話はちょっと待って」などといわれて、1か月待つ、ということはありませんか。

本当に1か月ならよいのですが、こういうことが何度も重なると、数か月や1年はすぐに経過します。気のよい人はこう言われると、手も足も出なくなります。このように、わざと引き伸ばす人もいるようですからお急ぎください。

遺留分請求をしてみると

【遺留分の請求】を「遺留分侵害額請求」といいます。遺留分侵害額請求をすれば、法定の遺留分が自分のものになります。
しかし、遺留分の算定が難しいので、多くの場合、相続人同士で話しあっても結論は出ません。まず、遺留分侵害額請求をして、それから協議をすると思いますが、できれば遺産分割協議と同時に協議した方がよいでしょう。遺留分が問題になるようですと、相続人が直接に顔を合わせると話し合いが進まないことが予想されますから、これも書面を使っての協議をお勧めします。

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