損害賠償の話
たとえばケンカでAさんがBさんを殴ってケガをさせれば傷害罪でしょう。
そして、ケガの治療のために、Bさんが入院して治療していたとします。
入院中、病院が放火されて、Bさんが火事で死亡した場合、どうなるのでしょうか。
BさんにケガをさせたことについてAさんに責任があることは明らかですが、死亡についてはどうでしょうか。
殺したわけではありませんから、殺人罪にはならないような気がします。
しかし、AさんがBさんを殴って、入院させるようなことにならなければ、Bさんは死亡することはありませんでした。死亡したことについてもAさんに責任があるような気もします。
Bさんの遺族は、Aさんにどこまで責任追及(損害賠償請求)することができるでしょうか。
実はこれはとても有名な話なので知っている人は知っているのですが、老人会などの会合でこの話題を持ち出したときは結構盛り上がりました。
もうひとつ、別の例です。
知り合いがとても便利なものを開発し、評判が大変良いので、製造工場まで建てました。どんどん配送しなければなりません。
そこで、あなたは勤務していた会社を退社して、運送業を始めることにしました。
業務内容は明らかです。その知り合いの製造した品を運搬することです。
すでに製品は工場で製造されていますから、出荷に間に合うようにトラックの注文をしました。
しかし、トラックが届いた日の晩に、このトラックをCさんが勝手に海外に売却してしまいました。
これで、すでに約束していた製品配送ができなくなりました。
最初に配送する分が終われば、当然、次の生産分の運搬も任されるはずでしたが、これも引き受けることができなくなりました。
トラックは、製品を運搬し、予定の場所で降ろせば荷台はカラになりますから、帰路、別の荷物の運搬ができるように調整していましたが、トラックがないので、この仕事もあきらめなければなりません。これについても大変な損害をこうむった気がします。
Cさんにできる損害賠償額はどうやって算出したらよいでしょうか。
損害の種類
損害には2種類あります。「信頼利益」と「履行利益」です。
- 信頼利益:有効でない契約が有効に成立したと信じたために受けた損害が信頼利益です。契約のために目的地まで行くのに要した交通費などがそうです。
- 履行利益:契約がきちんと履行されれいれば得ることができたであろう利益です。契約どおりに商品を購入したとすれば、それを販売して利益を得ていただろうというような場合です。
実際の損害賠償請求
大きな契約のときには、あらかじめいろいろな場面を想定して、いざというときになるべく困らないように工夫してあるはずです。とはいっても、すべての状況を確実に予想することは不可能ですから、完璧な契約書というのはないと思っておくべきです。極力、すべてのパターンをカバーするようにして、あとは「双方がその都度、誠実に協議して決める」ことになると思います。
共同で何かを始めるときには、意気投合していますから、詳細な契約書など作成せずに、どんどん話を進めていることがあります。一応、規則はあると思いますが、正確な定めがないことがあります。
その後、うまく成果が出ないなどということになると、お互いの責任の範囲とか、権限などについて意見が食い違ってくると思います。発生した損害についても、誰にどんな義務や責任があるのか、誰が賠償するのかという問題が生じます。
友人と共同経営で仕事を始めるという場合に、その仕事がどのように進むのか明確ではありません。予想以上にうまくゆくかもしれませんし、予想とは違って経営が難しくなることもあるでしょう。とにかく仕事を始めてから初めて分かる現実があるようなので、もともとの契約では不十分なことがよくあります。ですから損害賠償などの協議が難しくなります。そこで、法的判断とか、もし裁判にしたらどうなると考えがちですが、簡単に言いますと、極力、協議で解決することをお勧めします。内容証明郵便などで双方の主張をきちんとまとめると、およその結論は見えてくることがほとんどです。
損害賠償請求と慰謝料請求
内容証明郵便の業務をしていると慰謝料請求に関する依頼をよく受けます。慰謝料請求は損害賠償請求のうちのひとつです。(慰謝料は、本来「慰藉料」と書くようですが、このホームページでは「慰謝料」と書いています。)精神的な損害についての賠償請求が慰謝料請求です。
慰謝料請求の場合、精神的につらい目にあったから相手に反省してもらいたいだけで、実際には金銭をもらいたいとは思わないという方も多くおられます。
本心から反省しているかどうかわかる場合はそれでよいのですが、わからない場合は、「目には目を。歯には歯を。」というわけにはいきませんから、反省も謝罪も「お金に換算」するしか方法がありません。逆に、お金を払えば謝らなくてもよいとも言えます。自分は悪くないと思っていても、客観的にみて悪いほうが「損害賠償・慰謝料」という名目の金銭を払いますので、これで勝負はついたのです。悔しさは残るかもしれませんが、それ以上はどうしようもありません。金銭でない謝罪もありますが、それは例外とお考えください。
損害賠償の種類と対応
損害賠償には、
- 契約を履行しなかった・できなかった(債務不履行)ために請求できるものと、
- 故意や過失で人の権利や保護法益を侵害した(不法行為)ために請求できるもの
があります。
債務不履行では、債務者が自分に責任がない(帰責事由がない)ことを立証しない限り、損害賠償請求に応じなければならないとされています。そこで、「損害賠償額の予定」をしておくこともあります。
不法行為では、請求する側(被害者側・債権者側)が損害の発生と相手の責任を立証しなければなりません。
消極的損害
損害賠償請求できる損害にはいろいろありますが、不法行為によって生ずる損害に、「精神的損害」や「消極的損害」があります。
消極的損害とは、その不法行為がなければ得られたであろう利益です。これは逸失利益のことです。
内容証明郵便で損害賠償請求したい、慰謝料請求したい、というご相談をよく受けますが、どういう根拠があって、どのような範囲で、いくら請求できるのかは冷静に検討しましょう。
過失相殺
請求される側(債務者・加害者)が一方的に悪いのではなく、請求する側(債権者・被害者)にも責任がある場合があります。
債務不履行における損害賠償請求では、裁判なら、請求する側にも責任があれば必ずその過失の程度において相殺(過失相殺)しなければならないことになっています。
もちろん、裁判ではなく当事者の話し合いで示談にするなら、お互いに納得できるようにすれば構いません。この場合、必ず示談書を作成しておきましょう。
それに対し、不法行為による損害賠償請求では、お互いの過失の程度に応じて相殺しなければならないということはありません。裁判であれば、双方の過失を考慮はするものの、お互いに同じくらいの損害だから、相殺してプラスマイナスゼロにするというようなことは許されません。
お金に困っていない人と、お金に困っている人が、お互いに同程度の損害(たとえば負傷)を与えた場合、過失相殺によってお互いに自分の医療費は自分で払うということにすると、お金のある人は困りませんが、お金のない人は治療ができなくなってしまう、ということを考えていただければ、ある程度納得の行く規定でしょう。とにかく、怪我の治療等を優先するのです。
損害賠償金の一括払い
不法行為による損害賠償は一括払いが原則です。上に書きましたように、怪我をしたからすぐに治療費と生活費が必要というのであればもっともな話ですが、たとえば不倫の慰謝料については、その金銭がすぐに一括で必要なことはあまりないでしょう。金額も数十万から数百万となると、一括で払えない場合も少なくありません。
そこで現実的な方法として、分割払いとなることがよくあります。分割払いとなると、途中で返済が滞ることがありますので、強制執行が可能な公正証書でを作成しておくとよいでしょう。これは返済が滞ることを心理的に予防する効果もありますし、実際に強制執行もしやすくなるというメリットもあります。
しかし、不倫の慰謝料支払いにおいては「不法行為による損害賠償は一括払い」「分割払いなら公正証書」というのは少し説明不足で、それほど高額ではないとか、それほど長期の分割払いでないという場合にも公正証書を作成するする必要はないでしょう。「慰謝料として△△円を支払ったら、示談が成立する。」という条件にしてあるでしょうから、支払いが終わるまで示談・合意は成立しません。たとえば1年前後の2回とか3回の分割払いでしたら、公正証書を作成しない人が多いと思います。
胎児の損害賠償請求
人は生きて誕生すれば、権利・義務を持つことができます。ということは、生まれないうちに(まだ胎児の状態で)は権利も義務もないはずです。
しかし、現代では胎児は生きて誕生する可能性が非常に高く、その場合に、誕生の前日に父親が亡くなったりすると、相続できないことになってしまいます。
実際には、もし1日早く生まれていれば損害賠償請求できたとか、これから生まれてくる子に財産をあげること(遺贈すること)ができないなど大きな問題があるので、例外的に胎児にも、
- 不法行為に基づく損害賠償請求
- 相続
- 遺贈
の場合には、「生まれたものとみなす」ことになっています。
胎児の側から損害賠償請求ができたり、胎児への相続分も考慮しなければならないこともあります。
生まれたときに胎児は何もしておらず、考えてもいないのに、権利や義務を持っていることになりますので、注意しましょう。
損害賠償請求できるとはいえ、胎児・新生児・幼児・未成年者は、普通には法律行為ができませんから、実際にどうするかは専門家にご相談ください。
損害賠償責任のある人
仕事中に人に損害を与えた場合などは、使用者責任(その人を雇っている会社の責任)もあります。その人が予想以上に業績を上げた場合には会社も利益を得て、その人が予想していなかった失敗(他人に損害を与えたなど)があった場合に会社が無関係なのでは公正ではないからです。
さらに細かな規定がありますが、内容証明郵便に関連してそのような相談を受けた場合には具体的に検討しなければならないケースがほとんどですから、ご連絡ください。
川崎市中原区の行政書士
東急東横線とJR南武線の交差する武蔵小杉、またはその隣の元住吉を中心に活動しています。
- 川崎市中原区・幸区・高津区・宮前区・麻生区・多摩区・川崎区
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など、面談が簡単にできます。
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大げさなことは言いたくありませんが、これまで青森・石川・福岡など、距離に関係なく依頼をいただいています。
面談時間は9時から18時までとしていますが、相談者さんの仕事の都合もありますので、
- 平日19時や20時など
- 土曜日
- 日曜日
- 祝日
でも可能なように工夫しています。
まずは、電話やメールでご連絡ください。
明らかに行政書士業務でないとか、彩行政書士事務所では通常取り扱わない業務もありますので、面談予約の前に、簡単にご相談内容をうかがっています。ひとことでお答えるできること、一般的なアドバイスに料金は発生しません。
なお、相談だけの場合には相談料を申し受けますが、その後、内容証明郵便、慰謝料請求、示談書、合意書、契約書、上申書、嘆願書、誓約書、謝罪文の相談などの業務となった場合には、はじめの相談料は「預かり金」として、文書・書面作成料金の最終的な料金から引いて精算させていただきます。
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